記録が残るネット献金が鍵
政党助成制度には穴が多く、国民が納得できる形で運用されていない。私なら政党助成制度を廃止して、別の手段を取る。徹底した透明化だ。
参考になる一例はアメリカだ。アメリカは、どんなやり方で政治資金を集めてもいいし、それをどのように使ってもいい。額の大きさも派手である。11月には大統領選挙があるが、共和党の大統領候補の一人であるニッキー・ヘイリー氏は、大富豪チャールズ・コーク氏の支持を取りつけてダークホースに躍り出た。コーク氏率いる政治団体は、大統領選に向けて7000万ドル(約100億円)を用意している。それだけのカネが平気で動くのが、アメリカの大統領選挙である。
候補者は、集めたカネをテレビやインターネットの広告につぎ込む。内容に規制はなく、時に対立候補を「人殺し」と批判するものまである。やりたい放題だ。ただし、誰がいくら寄付したのかをすべて公開しなければならない。ゆえに、不正が見つかりやすいし、ある候補者のカネの集め方に納得できなければ、有権者は対立候補に投票すればいい。そうした考え方で、政治の健全性を保とうというわけだ。
透明性では、アメリカよりもっと進んでいる国がある。「世界一透明な政府」を持つ北欧の国エストニアだ。
デジタル先進国として近年注目を集めるエストニアでは、物の売買や給料の振り込みなどのカネのやりとりはすべて、中央銀行である「エスティ・パンク」を通して行われる。手続きはすべて電子化されており、税金の計算も自動。税理士と会計士の出番はない。
このような仕組みなので、個人の収支は政府にすべて把握されているが、もちろん一般には公開されない。しかし、議員は別だ。議員本人の銀行口座や資産台帳が有権者に公開され、いつどこからどのような入金があったのか、簡単に調べることができる。議員の行動が、完全にガラス張りになっている。
付け加えると、エストニアは選挙のネット化が進んでいる。15歳以上の国民全員に「eIDカード」が付与されていて、それを使って世界のどこからでもネット投票ができる。選挙カーや立会演説会はなし。10日間ある投票期間のいつ投票してもいい。当然、日本のように投票日前日に候補者が声をからしながら「最後のお願いにやってまいりました」と訴える姿は見られない。究極に透明化されているだけでなく、選挙で運動員を大量に雇う必要がなく、そもそもカネがかからないのだ。
日本が目指すべきはエストニア型である。まずは21世紀型のサイバー的な管理で、政治に関わるカネの流れを透明化し、住民が監視できる状態にする。そして、政党助成制度を廃止する。アメリカのように派手にお金を集めるのは問題があるので、パーティーを抜け道とした企業団体献金も禁止する。個人からの献金は額に上限を設けて認めるが、インターネット振り込みに限定して履歴が残るようにする。そのうえで、献金のリストをすべて公開するのだ。ここまで抜本的にやらないと、政治とカネの問題は解決できない。
実は、必要な改革はこれだけではない。世襲議員があくせくしていないように見えるのは、「地盤(後援会)・看板(知名度)・鞄(政治資金)」を親から引き継いでいるからだ。それら3つを何も持っていない議員志望者が、政治資金改革によって金集めがしにくくなれば、世襲議員がますます有利になる。政治団体を親族が引き継ぐときは、政治資金にも相続税をかけるべきだろう。
また、特定の支持団体からカネや人の提供を受けている政党も人ごとではない。自民党議員がカネを集めるのは、そのカネで運動員を雇うため。その意味で、労働組合に人とカネを出してもらえる共産党や立憲民主党、創価学会から強力な支持を得られる公明党は、献金を受け取っていることと本質的には変わらない。人もカネも勝手に集まってくる政党に、澄ました顔で自民党を批判する資格はない。