日本の一流大学に通う中国人留学生が増えている。ノンフィクション作家の中原一歩さんは「日本の良好な治安やカルチャーなどソフト面に惹かれる中国人は多い。他方で、私が取材した中国人留学生は『日本は自由なのに、中国以上に政治に無関心な若者が多い。そのことに驚いた』と話していた」という――。

※本稿は、中原一歩『寄せ場のグルメ』(潮出版社)の一部を再編集したものです。

日本語学校の授業が終わり、各国の留学生が駅の構内になだれ込む
写真=iStock.com/icenando
日本語学校の授業が終わり、各国の留学生が駅の構内になだれ込む(※写真はイメージです)

日本語が全く聞こえない高田馬場駅前

夕方5時。JR高田馬場の駅前は騒然となる。早稲田大学をはじめ、駅周辺にある日本語学校、専門学校の授業が終わり、そこに通う各国の留学生が、一気に駅の構内になだれ込むのだ。

風貌やファッションこそ日本人と変わらないように見えるが、日本語は全く聞こえてこない。

飛び交うのは韓国語、ベトナム語、タイ語、台湾語、そして、圧倒的に多いのが中国語だ。朝夕の2回、高田馬場駅の周囲が、日本語以外の言語の洪水に飲まれてゆく風景は、ここ数年、この街の日常となりつつある。

「日本人には分からない感覚かもしれませんが」

早稲田大学に通う中国人留学生・徐博さんは、この駅前の雑踏に立ち、自らの故郷である浙江省のなまりを探すのが日課だと語る。

「日本人からすると中国語は1つかも知れませんが、日本語にも方言があるのと同じように、地方によって言葉が異なります。故郷の方言が聞こえてくると懐かしくて、嬉しくなりますね。それに、言葉だけでなく、実はファッションも国や地域によって個性があるんです。それを観察するのが楽しくて。日本人には分からない感覚かもしれませんが、同じ同胞といっても中国は広大です。私は中国の南の出身なのですが、日本に来て初めて西安など北の出身の人に出会いました」

高田馬場の名物と言えば、駅前の雑居ビルに掲げられた巨大看板。

かつては、日本人学生を意識した「学生ローン」や「予備校」の広告が並んだが、今では中文で書かれた中国人向けの看板ばかりが目立つ。その多くが「日本語塾」や難関大学を意識した「進学塾」「予備校」の看板だ。