その真意は「芸能界からの引退」か
松本人志は芸能界から引退するつもりだろう。
追い詰めたのは週刊文春の一連の告発記事ではなく、松本が思うままに操り、わが世の春を謳歌していたと思っていた「時代」であった。
時代に“排除”された芸人は過去にも何人かいた。
私が、その芸をこよなく愛した横山やすしもその一人だった。
かつてビートたけしはやすしを評して、「雲の上にいるような人だった。やすしさんには芸も色気も敵わない」と語ったといわれる。
横山が一方的にしゃべり、相方の西川きよしの眼鏡を飛ばす「どつき漫才」は、茶の間にも受け入れられ、「コント55号」と並んで一世を風靡した。
だが、酒を飲んでの不祥事が多く、タクシー運転手と口論になって殴るなどの傷害事件をたびたび起こした。
その後も傷害事件やドタキャンを繰り返し、その度に、謹慎、復活したが、ついには所属する吉本興業から契約解除されてしまった。
速射砲のごとく畳みかけるヤクザっぽい口調や、現役のヤクザとの交際を公言するやすしを受け入れていたテレビ視聴者も離れ、それから数年後の1996年に肝硬変で寂しく亡くなった。享年51。
#MeToo運動に始まり、ジャニーズにもメスが入った
その後も、警察による芸能人とヤクザの交際を排除しようという動きは強まり、2011年には全都道府県で「暴力団排除条例」が施行された。
当時、島田紳助は漫才コンテスト「M-1グランプリ」をプロデュースするなど、お笑い界の第一人者として多くの番組を持ち、人気絶頂だった。
その島田が暴力団との「黒い交際」があると週刊誌が報じた。警察からのリークではないかといわれ、島田は出版社を告訴したが、後年、東京地裁は「少なくとも記事の重要部分を真実と信じる相当の理由があった」と認め、島田側の主張を退けている。
2011年8月、島田は司会を務める「開運!なんでも鑑定団」放送終了後に吉本興業本社で記者会見を開き、暴力団関係者との交際を認め、潔く芸能界を引退すると表明したのである。
以後、島田は雑誌の取材は受けているが、テレビには一度も出ていない。
今回、文春が報じた「松本人志の性加害疑惑」も、今という時代を抜きにしては語れないはずである。
2017年に映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインによる性暴力告発を機に、世界中に広がった#MeToo運動は、遅ればせながら日本でも広がりつつあった。
そして昨年、英国のBBCが告発したジャニー喜多川の少年たちへの性的虐待問題が大きな広がりを見せ、男女を問わず性加害は絶対許さないという世論が形成されていったのである。