お笑いコンビ「ダウンタウン」の松本人志氏が、過去に複数の女性に性的行為を強要していたという疑惑を『週刊文春』が報じ、大きな注目を集めている。神戸学院大学の鈴木洋仁准教授は「松本氏の著書を読むと、彼の行動原理が理解できる。この本に綴られている『派手な言葉』からは、むしろ『不安や心配』が伝わってくる」という――。
2025日本万国博覧会誘致委員会の発足式典であいさつするお笑いコンビ「ダウンタウン」の浜田雅功さん(右)と松本人志さん=2017年3月27日、東京都千代田区
写真=時事通信フォト
2025日本万国博覧会誘致委員会の発足式典であいさつするお笑いコンビ「ダウンタウン」の浜田雅功さん(右)と松本人志さん=2017年3月27日、東京都千代田区

なぜ日本人は松本人志に熱くなるのか

昨年末に『週刊文春』が、松本人志による性加害疑惑を報じ、その次の号でも同誌は、続報を出す。

彼は、報道当初から疑惑を否定し、X(旧ツイッター)で立場を明らかにするとともに、フジテレビ系「ワイドナショー」への出演についても言及していた。

その後の展開は、ご存じの通りである。

「当面の間活動を休止したい旨の強い意向が示されたこと」によって、所属する吉本興業は「本人の意志を尊重することといたしました」と1月8日に発表している

『週刊文春』で行動を共にしていたと報じられたスピードワゴンの小沢一敬は、翌9日には活動継続を明らかにしていたものの、13日になって、本人からの申し出によって「当面の間、小沢一敬の芸能活動を自粛すること」をウェブサイトで所属事務所が公表した

彼らが何をしたのか、あるいは、していないのか。

一億総評論家状態のいま、屋上屋を架す意味はないだろう。

すでに論点や視点は出尽くしているように見えるし、だれもが公式の場面では優等生になるしかないから、わざわざあらためて書くまでもない。

それよりも興味深いのは、このひとりの芸人をめぐって、私たちが、ここまで熱くなっているところである。何が、これほどまでの注目を集めさせるのか。

30年続く「松本ブーム」

「ダウンタウンの松本人志」がお笑いの世界を超えて、広く知られたのは、初の著書『遺書』(朝日新聞社)が約250万部、続く『松本』(同)が約200万部という大ベストセラーとなった1994年から1995年にかけてである。

このときも、日本は、この男に夢中だった。

1995年4月8日の読売新聞夕刊は「人気の理由を出版社に尋ねても『われわれにもよく分からない』。このつかみどころのなさがベストセラーの秘密だろうか」と書いている。

出す本が、すべて途方もなく売れたわけではない。

松本人志 愛』(朝日新聞社、1998年)や、『松本坊主』(ロッキング・オン、1999年)といった著作は、目立ったものではない。

しかし、1995年の売り上げ1位と2位に並んだ『遺書』と『松本』をあわせて文庫化した『「松本」の「遺書」』(朝日文庫)は、1997年の初版から現在までの27年にわたって流通している。

2~3年で絶版になる本が少なくないなかで、芸能人の、それも売れた本への高いニーズが続いている。異例である。

今回の報道をきっかけに手にとった読者も多いのではないか。

かくいう私もまた、じっくりと読んだのは初めてだった。そこに書かれていた内容をヒントに、その行動原理を探ってみよう。