※本稿は、川島博之『歴史と人口から読み解く東南アジア』(扶桑社新書)の一部を再編集したものです。
月収5万円以下なのに高級スマホをもつ若者たち
筆者はベトナムを見ているが、ベトナムでは日本以上のスピードでスマホが普及したように感じる。現在、全ての若者がスマホを持っていると言ってよい。今でもベトナム人の賃金は高くない。ベトナム人は安月給を補うために副業を行っているが、それでも平均的な労働者の収入は副業をあわせてハノイやホーチミン市などで1カ月に4万円から5万円、地方では2万円程度だろう。
しかし、そんなベトナムで10万円もするスマホを持っている若者をよく見かける。もちろん格安機種を持っている人が多いのだが、格安機種でも3万円程度はするから、それは月収に相当する。どうやって購入するのだろうか。日本人は不思議がっているが、それほどまでに猛烈なスピードでスマホは普及してしまった。また、新しい機種が出ると買い替えも盛んである。
新聞もテレビも面白くなく、娯楽はスマホだけ
ベトナムには本屋が少ない。大都市にはあるが、地方で本屋を見かけることはまずない。新聞も少ない。ベトナムの新聞としてニャンザンが有名だが、それは共産党の機関紙である。そんな新聞を読んで面白いわけはない。だから、ベトナムの人々には日本人のように新聞を読む習慣はない。本も新聞も読まない。テレビは普及しているが、全てがNHKのようなもので、共産党の宣伝色が強くて面白くない。そんな社会でインターネットとスマホは急速に成長した。
ベトナムは経済成長が軌道に乗り人々の生活に余裕が出始めた時期と、スマホが普及する時期が重なった。中国では固定電話が普及する前に携帯電話が普及したと言われたが、ベトナムでは携帯電話が普及する前にスマホが普及した。
スマホは世界を大きく変えている。それはベトナムなど東南アジアにおいて顕著である。その結果、今後、東南アジアにおける経済発展は日本など従来型の発展とは大きく異なる可能性がある。