このままでは「人権侵害に寛容」とみなされる
ジャニーズ事務所の創業者である故ジャニー喜多川元社長による性加害問題をめぐり、いち早く「(事務所との)取引を継続しない」と方針を明確に表明したのがアサヒグループホールディングス(HD)だった。櫻井翔、岡田准一、生田斗真など6人をアサヒビールのCMに起用していた。「タレントに罪はない」などと、各テレビ局が事務所と取引を続けるスタンスなのとは真逆の姿勢だが、なぜアサヒはこうした素早い決断をしたのか。
「今後、ジャニーズ事務所のタレントを起用した広告や新たな販促は展開しない」。アサヒがこう表明したのは、ジャニーズ事務所が創業者による性加害の事実を認めた会見が行われた翌日に当たる9月8日(金)の15時。
アサヒを追うようにキリンHDが8日21時、週明け11日(月)にはサントリーHD、さらにサッポロHDは13日(水)に、それぞれジャニーズ事務所のタレントを自社の広告には起用しないと、相次いで表明した。
11日には、朝日新聞の取材に応じた勝木敦志アサヒHD社長が「2019年に(アサヒHDが)策定したグループの人権方針に照らせば、(ジャニーズ事務所との)取引を継続すれば我々が人権侵害に寛容であるということになってしまう」(朝日新聞・9月12日付)と、答えていた。
人権に敏感でなければ世界で商売できない
同じく、個人の資格で入会する経済同友会の代表幹事である新浪剛史サントリーHD社長は12日、ジャニー喜多川氏の性加害問題について会見で「人権侵害であり、大変遺憾」として、事務所の所属タレントについて「(広告などに)起用することはチャイルド・アビューズ(子どもに対する虐待)を企業が認めるということになり、国際的な非難の的になる」と発言した。
ポイントになるのは、グローバルでの人権に対する視座だ。ジャニーズ事務所が認めた性加害の事実を、世界はどう捉えているのか。そして、日本企業はどう理解しているのかである。少年に対する性加害は明らかな人権侵害であり、国際社会では決して許されない。
かつてビール会社は国内市場を中心に事業展開し、熾烈なシェア争いを演じていた。ところが、国内の少子高齢化への対応から、いまやグローバル企業へと変貌を遂げている。世界で戦い、先進国での常識やグローバルスタンダードと向き合っているのだ。特に、欧米系の先進国では人権は最重要のひとつだ。意識し理解していなければ、商売はできない。