その道筋の中で、企業が設備投資に躊躇しないよう、短期的な家計の直接支援によって購買力を高め(①に相当)、設備投資の効果が持続するよう、生産性の向上策を実施する(②に相当)。同時に、災害などで経済を停滞させないためインフラを再整備する(⑤)といった見せ方である。
この場合、企業が設備投資を行い、家計を支援すれば需要が増大して人手不足が深刻化する可能性がある。これを回避するため「年収の壁」対応とデジタル化支援(④に相当)によって企業の供給力を強化する、という流れであれば、経済学の理論にも沿いつつ、国民の理解度も上がったのではないだろうか。
岸田氏は、派閥の創始者である池田勇人元首相の経済政策を模範にしているとされる。池田氏が提唱した「所得倍増」というキーワードは、安保闘争で疲弊していた国民の心に響き、当時は高成長が続いていたため、容易に所得を2倍に拡大できた。
だが、今の時代はそうした環境にはなく、その中で賃金を確実に上げていくには、明確な道筋を示し、それに基づいて確実に政策を実施していく努力が必要となる。当初はそれが、岸田氏の掲げる「新しい資本主義」だったのかもしれないが、残念なことに国民の間に十分に浸透しているとは言い難い。
解散が取り沙汰される今、岸田氏に求められているのは具体的な物語を国民に示すことである。
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら