定年後は「晴耕雨読」「悠々自適」……。そんな夢を打ち砕くのが「リストラ」だ。現在、リストラは実際どのように行われているのか。そしてリストラに遭ったら、老後をどう過ごせばいいのだろうか。
「私には、小学生や中学生の子どもが3人います。これからどのようにして生きていけばいいのですか……」
「強く生きていけ……」
総務課長は苦笑いしながら繰り返した。
伊藤直子さん(仮名・41歳)は昨年5月、社長と総務課長から呼び出され、「今月末で辞めるように」と言われた。突然の、退職勧告である。全身の力が瞬く間に抜けていく。とっさに子どもたちの顔が浮かんだ。かすかな力を振り絞り、今後のことを尋ねた。
総務課長が苦笑いをしながら、「強く生きろ」と繰り返す。その言葉を聞くと、悔し涙が落ちた。社長らは、労働契約を解除する理由を告げなかった。それどころか、「辞表を書くように」と何度も促した。
伊藤さんは、それをかろうじて拒んだ。安易に辞めることはできない事情があった。6年ほど前に離婚し、いまは3人の子どもを抱え、シングルマザーとして働く。事務職の正社員としてフルタイム(残業は月20時間ほど)で働く毎月の給与は、手取りで約19万円。年収は300万円に満たない。国から支給される児童扶養手当を含めてやりくりをするが、生活は苦しい。
この会社には、4年前にハローワークの紹介で中途採用試験を経て入社した。それより前の一時期は生活保護を受けることも考えた。