中国製EVに制裁関税を発動する可能性も

バッテリーの部材分野でも中国企業の成長は目覚ましい。絶縁材(セパレータ)分野で上海恩捷新材料科技(上海エナジー)は、リチウムイオンバッテリーなどに用いられる絶縁材の生産能力を急速に強化し、世界トップに成長した。事実上、中国の企業はEV関連産業の川上から川下までを押さえたといえる。

その状況に危機感を強める主要先進国は増えた。米国は、北米で生産されたEVに補助金を支給するなどし、自動車メーカーに中国からの調達を減らすよう求めた。米国内でバッテリー工場建設を目指したフォードは、CATLの支援をうける計画が批判され、建設の一時停止を発表した。再開のめども立っていない。

欧州委員会は中国の産業補助金が過度なEVの価格競争を招いたと判断し調査を開始した。洋上風力発電を増やしカーボン・ニュートラルなEV生産の増加に取り組むドイツでさえ、BYDなどの競争力向上は脅威だろう。欧州委員会が中国から輸入するEVに制裁関税を発動する可能性も高い。

BYDはリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを用いてEV車の量産に成功した
撮影=プレジデントオンライン編集部
BYDはリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを用いてEV車の量産に成功した

BYDはなぜここまで成長したのか

共産党政権による産業補助金以外にも、中国のEVメーカーの躍進を支える要素は多い。BYDのバッテリー製造技術などを確認すると、それがよくわかる。わが国ではEVバッテリーに“リチウムイオンバッテリー”を搭載することが多い。一方、BYDは“リン酸鉄リチウムイオンバッテリー”を自社で開発し、わが国でも販売する“アット3”や“ドルフィン”などに搭載した。

リン酸鉄リチウムイオンバッテリーは、レアメタルの“コバルト”を使わないためにコストが低く、安全性も高いといわれる。一方、課題もある。その一つに、エネルギー容量の小ささがある。そのため車載用バッテリーとして、リン酸鉄系よりも、コバルトなどを用いるリチウムイオンバッテリーが選好された。

課題を解決するために、バッテリーメーカーとして創業したBYDは研究開発を重ね、リチウムイオンバッテリーを上回る性能を持つリン酸鉄リチウムイオンバッテリーの製造技術を実現した。BYDは2010年に発表したEVの“e6”からリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを用いた。