豊臣秀吉の妻だった淀殿はどんな人物だったのか。歴史評論家の香原斗志さんは「戦国時代には珍しく自己主張が強い女性だった。その性格は、幼少期に両親を亡くし、他人の庇護下で生きた壮絶な経験のせいだろう」という――。

10代で2度の落城、両親との離別を経験した淀殿

徳川家康が享年75(満73歳)で没するほぼ1年前、大坂夏の陣で自決した淀殿こと浅井茶々が、いわゆるラスボスになることはまちがいない。NHK大河ドラマ「どうする家康」の話である。そのための布石は、すでに第30回「新たなる覇者」(8月6日放送)で打たれていた。

信長の妹、市(北川景子)が再婚した柴田勝家(吉原光夫)は、賤ケ岳合戦で敗れて居城の北ノ庄城(福井県福井市)に逃げ込むが、羽柴秀吉(ムロツヨシ)に囲まれてしまう。市は夫とともに自害する道を選び、浅井長政(大貫勇輔)とのあいだに生まれた茶々、初、江の3姉妹を秀吉のもとに逃がす。

映画『キネマの神様』の完成披露試写会に登壇した北川景子さん(東京都千代田区の丸の内ピカデリー)=2021年6月28日
写真=時事通信フォト
映画『キネマの神様』の完成披露試写会に登壇した北川景子さん(東京都千代田区の丸の内ピカデリー)=2021年6月28日

その際、茶々(少女時代は白鳥玉季)が秀吉の前で、いきなり「秀吉の女」になることを許容するような、思わせぶりな態度をとった。それはこういうことだった。子供時代の家康(松本潤)は市に、危機のときには助けに行くと約束し、市はそのことを娘に話して聞かせていた。それなのに、家康は助けに来ないで市を見殺しにしたので、茶々は家康を恨み、「茶々が天下をとる」と宣言して秀吉に投降した、というわけである。

茶々は秀吉を利用して「天下をとる」ことをたくらみ、家康にはみずから命を絶つまで抵抗を続ける。その動機が「どうする家康」では、慕っていた家康に助けてもらえなかったという、母の無念に置かれるということだ。

10代半ばまでに二度の落城を経験し、そのたびに父、母ばかりか周囲の人間がみな死んでいった茶々の生い立ちを考えれば、屈折しないほうが不思議である。だが、歴史を動かした背景が、あまりに小さなスポットに設定されてはいないか。