「スーパー看護師」の活躍に期待したいが…
また、准医師的な資格もいろいろあるべきだ。「特定看護師」は、2015年にできた制度で、糖尿病看護師、透析看護師、ICU(集中治療室)看護師、産科看護師、精神看護師などあって、医師に代わってかなり広範囲な業務ができる。いまのところ、いわば「スーパー看護師」だが、今後、分野によってはほぼ医師と同じことができるようになってもおかしくない。
ところが、独占業務を確保したい医師や、看護師同士の格差ができるのを嫌う看護師が多いのに加えて、資格を取得しても保険点数上のメリットがなく、給与も上がらないので、病院側も研修に出すことを嫌うため、あまり普及していない。将来の発展を期待して制度だけ導入したものの、摩擦を避けるためにわざと使いにくくしている印象だ。
かつて、沖縄には米占領軍がつくった「医介輔」という代用医師制度があって結構役立っていた。あるいは、患者本人や家族が判断するのと救急窓口へ行くのとの中間で、とりあえず、看護師の経験者などが往診して第一次的判断をしてくれる存在があってもよいと思う。
こうした医療行為者の拡大に対して、医師の数を増やすほうが合理的だという人もいるだろうと思うので、そちらについても少し論じる。
医師不足は「ボスたちの談合」の結果
日本の医師の数は人口に比べて少ないと言われており、人口1000人あたり医師数(2019年)は、OECD(経済協力開発機構)の平均が3.6人であるのに対し日本では2.5人である。これは、関係者の圧力で医学部増設が抑制された結果である。医師が過剰にならないように1982年、1997年の閣議決定で医学部の入学定員が抑制された。
ここでいう関係者というのは、医師会だけではない。日本の文部行政では、国家的な見地から大学の定員が決められるのでなく、分野ごとに、関係分野のボスたちの談合で決まるのである。医学部で言えば、医師会の実力者や有力医学部の教授、厚生労働省の医系技官、族議員などがどう考えるか、が決定打になる。
たとえば、既存大学の先生方が既得権益を守りに入るか、系列の学部を新設して勢力拡大を図るか、医師会が自分たちの競争相手の出現を嫌うか、自分たちの子弟が医学部に入りやすいほうがいいか、で結論は違ってくる。
そのために、同じように不足しているといわれていた医学部、歯学部、薬学部、獣医学部のうち、歯学部や薬学部は多くの新設学部ができて過剰、獣医学部は半世紀にわたっていっさい新設を認めず、医学部は新設がないわけでないが不十分という歪な結果になった。