柳井 それは藤田さんも参ったでしょうね。ねえ。
孫 はい、確かに。それで、毎日、電話していたんだけれど、当時、市外電話の料金はものすごく高かった。まだ、当社が電話事業に参入していない頃でしたし(笑)。電話をかけるより、直接、会いに行ってやろうと、アポイントも取らずに飛行機に乗ったんです。羽田空港に着いて、そこから藤田さんの秘書に連絡しました。
「私は藤田さんの本を読んで感激しました。ぜひ、一度、お目にかかりたい。しかし、藤田さんがお忙しいことは重々、承知しています。顔を見るだけでいいんです。3分間、社長室の中へ入れてくれればそれでいい。私はそばに立って、藤田さんの顔を眺めています。目も合わさない、話もしないということなら藤田さんのお邪魔にはならないんじゃないでしょうか……」
――それでどうなったのでしょう?
孫 秘書の方に言いました。私が話した通りのメモを作って、それを藤田さんに渡してくれないか、と。そのメモを見て、それでも藤田さんが「会う時間はない」と言うのなら、私は帰ります。ただし、秘書のあなたが判断しないでください、と。
それで先ほど言った内容をメモしてもらい、電話口で読み上げてもらって、てにをはの間違いを直して(笑)。そうしたら、よし、15分だけ会おうということになったんです。
柳井 そこでコンピュータを勉強しろ、と。
孫 ええ、これからはコンピュータビジネスの時代だ。オレがおまえの年齢だったら、コンピュータをやるとおっしゃっていた。
柳井 僕も藤田さんとは面識があるんです。ソフトバンクの社外取締役になったとき、前任者が藤田さんでした。引き継ぎでお目にかかったら意気軒昂で。話しだしたら止まらない。僕は藤田さんの演説に耳を傾けるだけ……。別れ際に「おお、柳井くん、キミにいいものをやろう」とハンバーガーの無料券を3枚くれた。いや、面白い方だった。