子育てとマネジメントは共通する?
もう少し事例を積み重ねてみましょう。30代論および40代論では、結婚や子どもの誕生以後も、仕事とプライベートを分けないことが推奨されています。大塚さんが端的ですが、次のような言及がなされています。
「30代で年収が800万を超えているビジネスパーソンというのは、そもそも仕事とプライベートの線引きが曖昧、もしくはほとんど気にしていないはずです。(中略)30代で成果を出した人は、仕事だけしていた人では決してありません。プライベートでも全力で楽しんだ人たちです。彼らに共通するのは、両方に全力をかけたからこそ、プライベートでの経験が仕事に活きたり、仕事の経験がプライベートに活きるということを体験していることです」(大塚30、114p)
「親としての役割を果たすことを『親業』といいますが、その『親業』と会社の部下やメンバーを育てることは、かなり共通点があります」(大塚40、211p)
「子育てにはたくさんのマネジメントのヒントが隠されています。(中略)子育てとマネジメントは共通する部分が多いのです」(大塚40、214p)
仕事とプライベートを分けない、というよりもむしろ、子育てを部下の教育と並列にみなし、子育てにマネジメントの発想を積極的に取り入れていくこと。具体的には、子どもと過ごす時間が少ないので「密度優先型」の演出をしよう(大塚40、135p)、子どもに「サプライズ」を用意しよう(137p)、「お前のことは、きちんと考えている」というメッセージをしっかり伝えよう(213p)、といったようなハウツーが示されています。
このような考え方はまさに、「PRESIDENT Family」のようなアッパーミドルもしくはアッパー(を目指す)層向けの育児雑誌上で繰り返し示される家庭観・育児観の典型だといえます。そうであれば当然、次のような言及――子どもを私立に入れることは当然であり、それが出来ないことはプレッシャーにさえなる――が出てきても驚かないわけです。
「せっせと貯金すれば、その分、生活は貧しくなるでしょう。昼食をワンコイン定食にして、靴や洋服をワンランク落とすという程度ならまだしも、子どもの進学を私立から公立に変更しなくてはいけないとか、仕事に必要な書物を十分に買えないというような心理的プレッシャーが生まれると、これは見過ごせない問題です」(井上30、112p)
さて、ここまで挙げてきた、「年代本」が推奨するライフスタイルについて整理しておきましょう。どんなときでも自己投資を惜しまない。一流の仕事術を体得しようとするのみならず、一流品に触れることで自らを高めようとする。自らの仕事の状況やライフスタイルに合わせて住居を転々とすることを厭わない。仕事とプライベートを分けず、プライベートの中に仕事のヒントを見出し、子育てにマネジメントの考えを導入する。子どもの私立校受験を当然と考える――。
このようなライフスタイルについて私は、現代におけるアッパー(ミドル)層男性のライフスタイル観が「結晶化」されたものだと主張してきたわけですが、皆さんはどう思われるでしょうか。実に勇ましく、優雅で、このようにありたいと思うでしょうか。それとも、実に自己中心的だとか、いかにも男性的だとか、ついていけないと思うでしょうか。
ここで私が評価することは差し控えたいと思いますが、1つ気になるのは、ではこのときパートナーはどう思っているのかということです。しかし「年代本」からこのことはよく分かりません。「年代本」では男性の家事・育児への参加は奨励されるものの、パートナーはあくまでも自分の貫こうとするライフスタイルのパートナー、相談相手であって、その考え自体に焦点があてられることはないためです。つまり今回私がとった基準から抽出される「年代本」は、基本的に男性目線のライフスタイル論なのだということです。
では、「年代本」からはほとんど見えてこない、女性のあるべき生き方とはどのようなものなのでしょうか。この点については、まずは視点だけを提示しておき、今後の連載における宿題にしておきたいと思います。