TOPIC-2 「分岐点」としての20代
前回示したとおり、近年は非常に多くの「年代本」が刊行されています。扱われる年代も、20代が最も多いものの、30代や40代を扱う書籍も決して少なくはありません。どうすれば、こうした「年代本」の総体をつかむことができるでしょうか。今回は以下のような基準で対象書籍を抽出することにします。
それは、「1人の著者が、1つの出版社で手がける、複数の年代を論じているシリーズ」を扱うことです。この基準をとることで、各年代についての議論の連続性と不連続性をよりつかむことができるようになると考えるのです。
もう少し説明が必要ですよね。この基準をとることの狙いは2つあります。1つは、20代論だけしか書いていない著者の書籍だけを見ても、それが本当に20代にのみ必要だとされることなのか、その著者が人生のどの時期においても必要だとすることなのかが判別できないため、それを避けるという狙いです。だから複数年代を扱う著者の書籍を見て、各年代固有のテーマを浮き彫りにしたいのです。
もう1つは、前回、千田琢哉さんが2年半で21冊もの「年代本」を手がけていると紹介したことに関連しています。つまり、「同じ著者が、違う出版社から、重複する内容の『年代本』を出版する」可能性を考慮するためです。同じ出版社から出た書籍に注目することで劇的に変わるとも言いきれませんが、同じ編集者とのやりとりのなかで、「今書いている30代論は、以前書いた20代論とどう違うんですか」といった各年代の切り分けがもっとも意識的になされるのが、同一出版社からの連作だと考えるのです。
今説明してきたような意図にもとづく基準から、今回は5人の著者の、計15冊の著作を抽出しました(表)。
千田さんと大塚寿さんが先の基準からずれているのは、まず千田さんの場合、複数の年代を論じた、同一出版社での連作はきこ書房から出ているのですが、千田さんの代表作で20万部以上売れている(千田さんのホームページ参照)『死ぬまで仕事に困らないために20代で出逢っておきたい100の言葉』を扱っておきたいためです。大塚さんの場合、連作はダイヤモンド社から出ている30代・40代論なのですが、ほぼ同一の装丁で、またほぼ同一の観点から、PHP研究所から20代論が出ていたので追加しています。
連載では以後、20代論で2回、30代論と40代論で各1回ずつ、計4回を費やして「年代本」について考えていきます。また、煩雑になることを避けるため、書籍の引用を行うときは上表の「略称」欄に記載されている表記を用いることとします。たとえば「千田20b、1p」とある場合、『20代で伸びる人、沈む人』の1ページに書かれている、ということです。
20代論の中身に入る前に、各著者のプロフィールを確認しておきたいと思います。「このようなキャリアをたどったから著作の内容もこうなるのだ」という直線的な因果関係を論じられるとは思わないのですが、それでも、著作ごとの内容の違いについて解釈する一定の手がかりになると考えるためです。
まず千田さんは、コンサルタント会社を経て独立後、現在は「イノベーション・クリエイター」として、執筆・講演・社外顧問を中心に活動をされている方です。大塚さんは1962年生まれで、株式会社リクルート、アメリカへのMBA留学を経て独立し、現在は研修・コンサルタント会社の代表取締役となっています。川北義則さんは1935年生まれで、東京スポーツ新聞社を経て独立し、出版プロデューサーや評論家として活動されています。執筆活動歴は長く、1980年代から現在までに、150冊以上の著作を手がけています。概して言えば、この3名が「会社で働くこと」を中心に「年代本」を手がけていると言えます。
「会社で働くこと」を必ずしも自明としない生き方を論じるのが他の2名です。本田健さんは『ユダヤ人大富豪の教え』(大和書房、2003)でも有名な作家・実業家ですが、近年10代から50代までに関する「しておきたい17のこと」というシリーズを大和書房から次々に出版しています。年代のみならず性別も問わず、広く包含できる著述スタイルが特徴だといえます。井上裕之さんは「歯学博士・経営学博士・コーチ・セラピスト・経営コンサルタント」という肩書が著作の表紙に記載されており、非常に多面的に活動されている方です。井上さんは独自の一貫した枠組――「心から望んだことを自動的に達成する人生の羅針盤」(井上20、59p)としての「ライフコンパス」を身につけること――から各年代の生き方を論じています。
『伸びる30代は、20代の頃より叱られる』
千田琢哉/きこ書房/2010年
『20代のうちに知っておきたい100の黄金ルール』
大塚 寿/PHP研究所/2012年
『30代を後悔しない50のリスト』
大塚 寿/ダイヤモンド社/2011年
『40代を後悔しない50のリスト』
大塚 寿/ダイヤモンド社/2011年
『「30代」でやっておきたいこと』
川北義則/三笠書房/2011年
『男が40代でやっておくべきこと』
川北義則/三笠書房/2010年
『20代にしておきたい17のこと』
本田 健/大和書房/2010年
『30代にしておきたい17のこと』
本田 健/大和書房/2010年
『40代にしておきたい17のこと』
本田 健/大和書房/2011年
『20代でやるべきこと、やってはいけないこと』
井上裕之/フォレスト出版/2012年