【前回までのあらすじ】20代は無限の可能性があるが、分岐点でもある。恋愛の時期だが、結婚はまだ先だ――と「20代本」は語っている。では、「今の若者としての20代」は、自己啓発書の中でどう語られているのか。

TOPIC-3 若者論・階層論としての自己啓発書

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今回の対象書籍を見ながら興味深いと思ったのは、20代論はしばしば現代若者論の容貌を見せるということです。「年代本」における若者の語られ方は非常に単純で、「現代の若者は不甲斐ない、ダメだ」というパターンでほぼ占められます。たとえば以下のようです。

「いまの若者は叱られることに弱い」(川北20、52p)
「20代の多くが大志を抱かず、自分の将来を『そこそこでいい』と思っている」(大塚20、80p)
「現代の若者は無理を嫌い、率先して無理してみようとはほとんど考えないと思います」(井上20、120p)

具体的なトピックとしては、若者の人間関係のあり方について語られることが多いといえます。つまり、仲間内で群れ合う関係性が現代の20代の特性だが、そこから抜け出さねば成功することはできないというものです。

「20代はとにかく群がるのが好きだ。暇さえあれば、いつも群がっている。(中略)だから『友だち作らなきゃ教』から抜け出せずに、つい無駄な時間をだらだらと過ごしてしまう」(千田20a、177p)
「心地よい同期中心主義が、時として、上下斜めの人間関係を築く機会を奪ってしまうことがある」(大塚20、149p)

大塚寿さんが「場の空気を読むことは、社会人ルールの第一歩」(大塚20、180p)と述べるように、人間関係に気を払うこと自体が否定されているわけではありません。ただ、20代を実りあるものにしたいなら、周りの空気を読むことに気を使い、互いに群れ合うような「現代若者気質」から抜け出さねばならないという点では共通しているといえます。

「年代本」ではしばしば、たとえば千田琢哉さんが「世の中の99%の人」と「1%の挑戦者」という対比を用い、また大塚さんが「大衆人材」(大塚20、58pなど)という言葉を用いているように、世の中一般の平凡な人はこうだけれど成功する人は違うのだという二分法が議論のスタートラインになっています。

この二分法のうち劣る者として位置づけられる側、つまり世の中一般について表現する際、特に20代論や30代論の場合は「現代若者気質」が語られることになります。この「現代若者気質」の事例としてしばしば挙げられ、批判されるのが、現代の若者の「仲間内で群れ合う関係性」なのです。