成功者の家庭生活論

30代論ではもう1つ、新しいトピックが登場します。結婚や子育て、家庭生活に関するトピックです。20代論ではせいぜい川北さんが「結婚観の確立」を説くに留まっていたこのトピックが、紙幅の一角を占めるようになるのが30代論なのです。ここでは前回と同じ視点、つまり「年代本」は現代におけるアッパーミドル、もしくはアッパー層のライフスタイルの理想的イメージなのではないかという視点から家庭生活論を眺めてみようと思います。

まず共通しているのは、結婚や子どもの誕生を経ても、自分自身の能力開発にお金を使う、つまり自己投資を忘れてはならないとする考えが根本にあることです。これは40代論においても共通しており、時として家族に多少の我慢を強いてでも自らを高める必要があると述べられています。一流に触れることの重要性もこのような観点から、30代論および40代論においても語られ続けています。

「沈む30代はこれからいよいよ回収の時期だと、一気に守りの姿勢に入ってしまう。結婚もしたことだし、子どもの教育費もかかるし、なけなしのお小遣いだし、自己投資をしている場合ではないと考えて、すべて貯蓄に回してしまう」(千田30、169p)
「家族に少し我慢させても、一家の稼ぎ手たる自分の可処分所得の増額に振り向けるべきだ。それくらいはしたっていいだろう。(中略)女房からもらう小遣いだけでは、昼食、お茶、たまの一杯ぐらいで、ほかに何もできないだろう。男はそんなことではダメなのだ」(川北40、79p)

また、住居についての言及も30代論では登場しますが、その言及のあり方はほぼ次のように統一されています。

「住み家はライフスタイルに合わせて変え続けることを前提にするべきだということです」(大塚30、145p)
「伸びる30代は、賃貸か現金一括で職住接近。沈む30代は、35年ローンの郊外一戸建てが人生の終着駅」(千田30、174p)
「将来どんどん出世して、住む場所を次々に変えていきたいというのであれば、絶対に賃貸にすべきだし、『よし、ここでやっていこう!』と、決められるほど惚れ込んだ土地なら、即金で買えばいいだけの話だ。私にはそのどちらの経験もあるが、人生のステージが確実に変わる」(同上)

後の回でも論じることになるのですが、かつての30代論では、マイホームを建てることが1つのゴールとされていました。しかし近年の30代論では、転勤ではなく、同じ職場にいたとしても、「ライフスタイルに合わせて」住居を変え続けることが推奨されています。「即金で買えばいいだけ」と事も無げに言えることも含めて、社会経済的条件に縛られることなく、自らのライフスタイルをつねに優先することが理想的だとする考えを見てとることができます。