政治に欠かせない「リアリスト」の顔

この1年あまり、安倍さんについて書いた本が何冊も出版され、雑誌の特集も組まれました。実にさまざまな立場から、安倍さんが語られています。

私は、『安倍晋三実録』では、ファクトを正確に残すことに腐心しました。安倍さんとのやりとりはたくさんありましたが、最高権力に上り詰め、そこから転落し、そして再び挑戦するという劇的な政治家人生を近くでウォッチできたことは、記者冥利に尽きる思いです。安倍さんの残した言葉を記録として残すことが、次世代を担う政治家の指針や、国民の判断材料として活きるのではないかと考えています。

「安倍さんの遺志を継ぐ」と話す政治家のなかには、安倍さんの理念にだけ目を向ける人が少なくありません。

しかし、安倍さんは理念を大切にしながら、リアリストの政治家として、戦略的な視点から実績を重ね、水面下では入念な根回しや議論を進めてきました。この視点を、本書にできるだけ盛り込んだつもりです。

「保守一辺倒」「リベラル一辺倒」ではない政治

例えば、安倍さんが採った外交戦略「地球儀俯瞰外交」は、日本を守ることが最終目的です。アメリカ一辺倒にならず、緊密な日米関係をうまく使いながら、多くの国と二国間関係を強化しました。さらに日米関係を、日本のためだけでなく、世界のために活用するという発想が安倍外交の特徴です。

岩田明子『安倍晋三実録』(文藝春秋)
岩田明子『安倍晋三実録』(文藝春秋)

日本が中国やロシアなど、多くの国とつながれば、アメリカにも強く出られる。中国に強く出るために、アメリカだけでなく、インドやオーストラリアともつながる。戦略的に日本のプレゼンスを高めていったのです。

だから日米関係、日中関係など、それぞれのシーンで見せる顔が違うのも当然です。最終目的にたどり着くために臨機応変な発想と戦略をとる、というのがリアリズムの政治です。保守一辺倒、リベラル一辺倒ではない政策決定を次々に進めた安倍さんのリアリストの顔。ここはみなさんに伝えたかったことの1つです。

『安倍晋三実録』で、安倍さんについてすべてを書き切ったわけではありません。まだ、書くには早いと思った安倍さんの言葉や外交の舞台裏はいくつもあるので、タイミングを見てお伝えしていきたいと考えています。

(構成=ノンフィクションライター・伊田欣司)
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