患者を多数抱える心療内科医が緊急で駆け付けた理由

筆者との面談後。母親は長女に「障害年金を請求するためには医師の診療が必要であり、それは訪問診療でも構わない」ということを伝えました。通院でなくてもよいということに長女もびっくりしたようですが、無事、訪問診療に同意を示してくれました。

長女からの同意を得た後、母親と筆者はインターネットで訪問診療の圏内にある心療内科や精神科を探しました。すると該当しそうな医療機関が3つ見つかり、さらにそれぞれのサイトを見比べ、長女が「この先生に診てもらいたい」という病院に決めました。

さっそく母親が病院に電話をしたところ、看護師からは「現在込み合っているので、受診はかなり先になってしまうかもしれません」と言われてしまいました。

母親は一瞬目の前が真っ暗になってしまいましたが、すかさず「娘はほぼ寝たきりで、外出もまったくできません。食事もろくに取れず、やせ細っているのです」といった窮状を訴えました。すると「それは大変ですね。お子様の状況を医師に伝え、できるだけ早く診療できるように相談してみます」との回答を得ることができました。

母親が電話をしたその日の夜。医師から「時間外の往診になってしまいますが、できるだけ早く向かうようにします。ご家族様のご都合のよい日を教えてください」との連絡がありました。すみやかな対応に母親も長女も信頼を寄せることができ、この先生を選んでよかったと心から思ったそうです。

聴診器
写真=iStock.com/volodyar
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訪問診療当日。医師が長女の部屋に入ると、長女は布団の中で横になって休んでいました。その日は春の暖かい陽気に包まれていたのですが、長女は冬物の厚手の寝巻きを着ており、掛布団は厚手の冬ものを使用していました。

医師が来たことに気が付いた長女は、ゆっくりとした動作で上半身を起こしました。しかし長女の目は視点が定まっておらず、意識はもうろうとしています。とても医師と会話できる状態にはなく、医師の問いかけに対して弱々しい声で「はい。はい」と答えるのが精一杯。長女から医師に病状を説明することができそうもないので、母親が代わりに状況を説明することにしました。

あまりにも長女が衰弱していたので、医師からは入院も勧められたそうです。しかし長女は頑なに拒否したため、週に1回の訪問看護と2週間に1回の訪問診療で様子をみることになりました。

長女はうつ病の疑いがあると診断され、薬を処方されることになりました。薬への副作用を考慮し弱めの抗うつ薬を処方されました。それでも薬を飲むと薬疹が出て気分も悪くなってしまったので、後日医師と相談し、薬は漢方薬に切り替えてもらうことになりました。