筋肉が減ると危険だといわれる理由

私たちの身体には、大きいものから小さいものまで400とも600ともいわれる数の筋肉が存在しています。筋肉は、身体を動かす働きのほか、基礎代謝を上げ、血液やリンパの循環を促すといったさまざまな働きをしています。

筋肉が減ると、さまざまなリスクが挙げられます。

●免疫機能の低下
●血糖値の上昇
●活動量の低下による認知機能、運動機能の低下

筋肉は、構造や働きの違いによって骨格筋、心筋、平滑筋の3つの種類に分けられます。

骨格筋……筋肉全体の約40%を占める人体最大の臓器
心筋……心臓を動かしている筋肉
平滑筋……消化管や血管を動かすことで、消化や血流の助けをする筋肉

3つの種類の筋肉の役割をあらためて見てみると、「やせて筋肉が減ったらまずいぞ」ということに気づかれるはずです。

ひとつめの骨格筋は、身体活動を支え、血液中の糖や脂質の多くを消費する「代謝臓器」とされています。この筋肉は、運動することで増やすことができます。

残念なことに私たちの筋肉量は、40歳を境にだんだん減少していく傾向にあります。30歳から減少するというデータもあります。

毎年1%ずつ減り続け、筋トレや積極的なタンパク質摂取などによって筋肉を増やす努力をしなければ、20年後には20%、30年後には30%の筋肉が減ってしまいます。

そして、60歳を越えるとその減少率がさらに加速し、70歳を越えたころから次のような自覚症状を認めるようになります。

・よくつまずく
・立ち上がるときに足の筋肉だけでは立てず、手を使う
・ペットボトルのキャップを開けるのに苦労する
・立ちっぱなしがつらい
・階段を下りるのが怖い
・猫背の姿勢のほうが楽
・すぐに疲れる
・足がむくみやすい

筋肉は活力エネルギーを生み出す工場ですから、筋肉が減ってしまえば疲れやすくなり、やる気もわきません。それだけではなく、筋肉が減ると肺炎や感染症、糖尿病などさまざまな病気のリスクも高まります。

免疫、血液循環…筋肉の大切な8つの役割

あらためて筋肉が持つ大切な役割についてまとめます。やせること、つまり「筋肉やせ」がどれほど危険かを理解するはずです。

①姿勢を保持する

筋力が弱ると姿勢をしっかり保持できないため、自分の力でまっすぐに椅子に座れない人も出てきます。介護施設ではまっすぐに座れない人をよく見かけます。

姿勢を保持する筋肉がしっかりついていれば、加齢によって起こりやすい転倒による怪我・骨折などを予防することができます。

②血液循環をよくする

筋肉は「第二の心臓」ともいわれています。骨格筋が収縮することによって、血管が収縮し、血液を心臓へ戻すポンプの働きをします。

やせる(=筋肉が減る)と心臓へ血液を戻すことがものすごく大変で、心臓に大きな負担がかかります。階段を少し上っただけで息切れするのは「筋肉やせ」が原因かもしれません。

③代謝を上げる

筋肉は、糖質と脂質を分解してエネルギーを産み生し、熱を発生する基礎代謝を行っています。体温を一定に保ち、生命活動を維持するために必要な基礎代謝を筋肉が担っています。

筋肉がついていると、エネルギー源となる糖質と脂質の代謝がしっかり行われます。足が冷えたり、寒い寒いといって冷え性で悩んでいる方は、筋肉が減っている可能性が考えられます。

身体が熱をつくれなくなると免疫力も低下します。体温が上がると、血液中の白血球に含まれる免疫細胞が活性化され、免疫力が高まります。体温が1℃上がると、免疫力は5~6倍になるとされています。

④身体を守るクッション

身体の中には内臓や血管、神経など大切なものがたくさんあります。筋肉がないと、外部からの衝撃から大切なものを守ることができません。筋肉は重要なクッションの役割を果たしています。

⑤水分の貯蔵庫

やせて筋肉がないと、熱中症にかかりやすくなります。高齢者が夏場に脱水症状で運ばれるのは、筋肉量の減少が原因のひとつです。

筋肉は、身体全体の約6割の水分を保持しています。筋肉量が減ると、いくら水分補給をしても水を蓄えることができません。そのため脱水症状や熱中症などになりやすくなります。

⑥免疫力を上げる

筋肉は免疫力を高める作用があります。骨格筋内のアミノ酸は、リンパ球などの免疫細胞を活性化します。

筋肉量が減ると、風邪をひきやすくなったり、インフルエンザやコロナなどの感染症にかかりやすくなります。やせると免疫機能の低下につながるので、高齢者のダイエットはとても危険です。

⑦筋肉を動かすこと(運動)により、さまざまな生理活性物質が分泌される
和田秀樹『やせてはいけない!』(内外出版社)
和田秀樹『やせてはいけない!』(内外出版社)

筋肉には、生理活性物質を分泌する働きがあります。それを「マイオカイン」といい、30種類以上発見されています。

例えば、そのひとつのイリシンが血流に乗って脳に運ばれて、神経細胞を活性化する物質を分泌する、と考えられています。

ほかにも糖と脂質の代謝を促進して脂肪肝改善と体脂肪分解を促進したり、骨形成を促進して骨粗しょう症を予防したり、動脈硬化の予防、抗炎症作用、大腸がんの抑制、膵臓すいぞうでインスリン分泌を高める、脂肪組織を燃えやすい褐色脂肪細胞に変える……など、運動にはさまざまな効果があるのです。

⑧認知症の予防

加齢により筋量と筋力が低下すると、認知症の併存率が高いことが報告されています。長期間の入院によって認知症発症リスクが高まることも報告されています。

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