食べ物を食べる・飲み込むには筋力が必要

「無意識のダイエットの危険」について少し解説しておきます。

高齢者は、食べる量がそんなに減っているように見えなくても、あるいは見た目の体重にあまり変化がないように見えても、体重から脂肪を引いた「除脂肪体重」の割合が減少していることがあります。

「除脂肪体重」の主要な成分は、骨格筋、結合組織、細胞内液、骨です。つまり、筋肉量が減り、骨がスカスカになり、細胞内液が減って張りとツヤがなくなるということです。

この状態にプラスして、さらに栄養障害・摂食障害、そしてダイエットなどが加わってしまうと、除脂肪体重はさらに大きく減少します。

じつは、年をとった人は、摂食障害になりやすいのです。だんだん年とともに食べる量が減ってきたことを実感している方も多いと思いますが、若いころに比べて食事量は減ってしまうものです。太りやすいのは40代、50代の中年までです。

また、年をとると食べ物がうまく飲み込めない嚥下えんげ障害なども起こります。食べ物を食べる・飲み込むには筋力が必要です。その筋力が衰えるため、舌で口からのどへ食べ物を送り込めなくなるのです。

また、食べ物を飲み込むときには、気道を閉じるのに必要な分だけのど仏を持ち上げなければなりません。しかしうまく持ち上げられないと、食べ物が気管に入りやすくなります。

例えば、みなさんには次のような症状はないでしょうか。

□ 食べるとむせる
□ 食事に時間がかかる
□ ゴックンと飲み込みづらくなった
□ 形があるものを噛んで飲み込めない
□ 食べると疲れる
□ 食後に痰が出る
□ 食事をすると声が変わる
□ 食べ物が口からこぼれる
□ 飲み込んでも食べ物が口の中に残る
□ 食べ物がつかえる

これらは嚥下障害の代表的な症状です。この症状が出てくると、食事がうまくとれないために体重減、低栄養、脱水症状を起こしやすくなります。気がつくと「無意識のダイエット」を行っているのと同じ状態に陥っているのです。

コンビニで買ったパンを水で流し込むような食生活はダメ

怖いのは、飲み込んだものが食道ではなく気管に入ることです。これを誤嚥ごえんといいます。食べ物が気管に入ると通常はむせて気管から排出する反射機能が働きます。

しかし、年をとるとこの機能が鈍り、気管に入り込んでしまった食べ物を排出できず、肺炎を起こすリスクになります。それが誤嚥性肺炎です。これは日本人の死因の6位にあたります。

普段から食べることを面倒くさがっていると、噛んで飲み込む機能が徐々に衰えていきます。筋力は、その筋肉を使っていることを脳で意識しなければ高まりません。

怖いことに、認知症やその予備軍のMCI(健常者と認知症の中間にあたるグレーゾーンの段階にある軽度認知障害)の人たちは、筋肉の痛みや疲れを感じにくいという身体的特徴があります。

認知症になると、筋肉と感覚神経とのつながりが悪く、筋肉の情報が脳に伝わりにくくなるからです。

食事は、食べ物をただ身体に入れればいいだけではありません。必要な栄養を自分の身体に供給すること。キッチンに立ったまま、コンビニで買ったパンを水で流し込むような食生活をしていると、食べる力・飲み込む力が衰えかねません。

食べるときは、「嚥下に意識を集中する」を強く意識することが大切です。食べたことをしっかり脳に伝えましょう。

フルーツサンドを食べている人
写真=iStock.com/petesphotography
※写真はイメージです