食べ物を飲み込む6つの嚥下行動

ひとくちに「食べる」といっても、飲食物など食べるものを、「目で認識し、飲み込むまで」が摂食嚥下えんげです。細かく分けると次のような6つの段階で行われています。

① 食物の認識(先行期)

食物の大きさや硬さ、粘着性、温度などを目と鼻と唇で認知します。

② 口腔への送り込み(準備期)

唇と舌を使うので、口輪筋と舌筋という筋肉を使って口の中に送り込みます。

③ 咀嚼と食塊の形成(準備期)

咬筋など口の中にあるさまざまな筋肉を動員して、食べ物をよく噛んで舌と唾液を使って食塊を形成します。

④ 舌根部・咽頭への送り込み(口腔期)

⑤ 咽頭通過、食道への送り込み(咽頭期)

咽頭から食道へ送り込みます。甲状舌骨筋という筋肉が喉頭蓋を閉じ、食塊が気道へ入るのを防ぎます。

⑥食道通過(食道期)

普段は当たり前のように「食べる」行為を行っていますが、食物を飲み込むためには、たくさんの筋肉が協調して、巧緻性がみごとに保たれています。

この嚥下行動は、加齢によって徐々に低下していきます。「口から食べられない=寿命」ともいわれていますから、しっかり食べられること=生命力の証といえます。

嚥下は1日に600~2000回といわれています。筋肉は、使わなければ老化していきますから、食べなければ徐々に食べる筋肉が衰えていきます。食べることは、食べるために使う「咀嚼筋トレ」を日常的に行うのと同じことです。

食べ物を咀嚼するたびに行う「咀嚼筋トレ」をすれば、イキイキとした若々しい表情を保つことにもつながります。咀嚼すると、顔の表情をつくる筋肉「表情筋(顔面神経支配)」の一部がしっかり働くからです。

食べることは、つまり見た目の老化の進行を遅らせることでもあるのです。

噛む回数が減ると、口角が下がった老人顔になる

「噛むと認知症を予防する」とよくいわれますが、噛むと脳が刺激を受けて、認知機能の衰えを防ぐことにつながります。

食事の回数が減るということは、つまり食べ物を噛む回数が減るということ。噛まなくなると、噛むための筋線維が細くなったり、脂肪変性が起こったりして筋力の低下を引き起こします。

食べる回数が減ると、顎の変形なども起こり、「食べる力」がさらに衰えていきます。「食べる」ことによる噛む刺激が脳に伝わりにくくなり、脳の働きにも影響してくるのです。

ちなみに、老けた印象を強く与える「ほうれい線」は、頬の筋肉(表情筋)が皮膚に付着(起始・停止)することによってできる溝です。噛む回数が減ると、口輪筋が弱くなり、周囲の表情筋もあまり動かなくなり、表情が乏しくなります。

口角が下がったいわゆる老人顔になってしまいます。

表情筋が衰えると頬がたるみやすくなり、ほうれい線の溝が深くなります。食事回数を減らすダイエットをすると、顔の脂肪が減り、頬がたるんで深いほうれい線をつくる原因になるのです。

輪っかテストであなたの「筋肉やせ度」をチェック

日本では75歳からは後期高齢者と呼ばれますが、実際この年齢を境に脳卒中や心筋梗塞、がんなどの病気にかかるリスクが増えます。また、75歳以上になると要介護の認定を受ける人の割合が大きく上昇します。

要介護になる主な原因の1位は認知症ですが、4人に1人が「高齢による衰弱」と「骨折・転倒」です。転倒の主な原因は、加齢による身体機能の低下、病気や薬の影響、運動不足です。

「やせたほうが健康によい」と信じている人が多いのですが、年をとってからやせることは、とても危険です。高齢者がやせることはイコール筋力低下だからです。ちょっとした段差でつまずいて転んで骨折したりなど、筋力低下は要介護を招きます。

年齢を重ねるにつれて筋肉量が減る老化現象をサルコペニアといいます。

サルコペニアはサルコともいわれ、ギリシャ語の筋肉「サルコ」と喪失を意味する「ペニア」を合わせた造語で、本書ではこの状態を「筋肉やせ」としてお伝えしていきます。

筋肉が減る(やせる)と、歩いたり立ち上がったりする日常生活の基本的な動作が難しくなり、転倒しやすくなります。65歳以上の高齢者の15%程度が「筋肉やせ」(サルコ)に該当すると考えられています。

ここで簡単にできる「筋肉やせ」チェックを紹介します。

【輪っかテストのやり方】
①椅子に座る
②両足裏を床につける
③前かがみになって利き足でないほうのふくらはぎのいちばん太いところを、両手の親指と人さし指で囲む(利き足がわからなければ、両足に行う)

【イラスト】輪っかテストのやり方
出典=『やせてはいけない!』(内外出版社)

【診断】
①指先どうしがつかず、ふくらはぎを囲めない→「筋肉やせ」の可能性はほぼなし②ちょうど囲める→「筋肉やせ」リスクは①の2.4倍高い
③隙間ができてしまう→「筋肉やせ」リスクは①の6.6倍高い

もしも、以前は渡れた横断歩道で青信号のうちに渡りきるのが難しくなっていたり、ペットボトルのふたが開けづらくなったなどの自覚症状がある方は、「筋肉やせ」の可能性が十分あります。

「この1年間で5㎏以上やせた」「動くとすぐ疲れる」といったことがあったら危険です。いまからでも遅くはありません。本書でご紹介するやせないための生活にいますぐ切り替えましょう。

【イラスト】診断
出典=『やせてはいけない!』(内外出版社)