従業員は解約プロセスを「迷宮」と呼んでいる

入会だけでなく、退会時にも問題が潜む。訴状は、「長年にわたりAmazonはまた、会員資格の終了を望むプライム会員の解約プロセスを意図的に複雑化してきた」と述べ、退会の難易度の高さを問題視している。FTCからの「著しい圧力」を受けてAmazonは、訴訟前にすでに解約プロセスを一部簡略化しているものの、これ以前のシステムにおいてはより顕著だった。

訴状は、「プライムの解約プロセスの主たる目的は、会員がキャンセルできるようにすることではなく、むしろ阻止することであった」と厳しく指摘。解約プロセスの複雑さは、Amazon社内でも認識されていたようだ。紀元前ギリシャの詩人・ホメロスによる、長く終わりのないトロイア戦争を描いた叙事詩『イリアス』にちなみ、社内では「イリアス・フロー」と呼ばれていた。

FTCはまた、Amazonの解約プロセスは「ラビリンス(迷宮)」の状態であったとも形容している。解約手続きのページに進むと、最終的な解約ページに至る前に、複数の中間ページを経由することを強いられる。

それぞれのページには「特典を維持」「あとで通知」「年払いへ変更」などの紛らわしいボタンが配置されており、うち正しい1つを選ぶことで1つ先のステップへ遷移。その先の各ページでも複数の選択肢が提示され続ける。意図しないものをクリックすると、その時点で解約プロセスを離脱するしくみになっていた。

アマゾンのウェブサイトのメインページ
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「送料無料」「30日間無料」で気軽に入会できる

FTCによる圧力を受け、Amazonはキャンセル手続きの導線を改善した。だが、現在もプラン解約には多くのステップを踏まなければならない。日本のサイトの例を見てみよう。

はじめに、プライム会員への加入は、非常に簡単だ。初回は支払い方法などの入力が必要となるが、特に紛らわしい導線や、入会を中断させる要素は設けられていない。加入から30日間は無料で体験できることから、心理的に気軽に試用しやすい。

また、プライム未加入の場合に課される送料も、プライム会員に試験的に加入しやすい誘因となっている。注文金額が2000円に満たない場合、本州・四国では410円、それ以外の地域や離島では450円の送料が発生する。

一部地域では当日配送に610円かかるが、これらはすべてプライム会員には無料で提供される。まずは送料の節約もかねて無料で体験し、頻繁に使わないようなら後日キャンセルしようという考えが働きやすい。