勤続38年退職金2000万円、税制見直しで所得税は15万円

ただし、退職所得控除を含め、終身雇用の砦としての退職金制度そのものを苦々しく思っている人もいるのは確かだ。一般的な退職金は、退職時基本給×支給率(勤続年数)で決まる。ジョブ型人事制度を導入した大手精密機器メーカーの人事担当者はこう語る。

「社員の経験や能力を評価し、昇給額が毎年積み上がっていく給与体系から、与えられた職務をこなせるかどうかで給与を決定する職務給制度に移行した。職責を果たせなければ給与も上がらなければ昇格もしないし、ただじっと経験を積めば上に上がり、長く定年まで働いてくださいという仕組みではなくなった。そうした考え方を前提に考えると、過去の実績や勤続年数で積み上がっていく今の退職金制度のあり方とはどうしても矛盾が生じる」

しかし企業の中には終身雇用否定派ばかりではない。現行の退職所得控除の見直しを行うことになれば「長期雇用」を標榜している企業にとってはデメリットにもなり得る。指針は「本税制の見直しを行う」としているが、仮に勤続20年超の人の控除額をそれ以前と同じく1年あたりの控除額を40万円に据え置くと、最終的な控除額が以前より少なくなる。国としては税収が増えるが、会社員としては退職金額が目減りすることになる。

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ただでさえ日本企業の退職金は減少傾向にある。厚生労働省の「就労条件総合調査」の退職金調査(5年に1回)によると、1997年の平均定年退職金は2871万円。その後、減少をたどり、約10年後の2018年は1788万円にまで低下している。

退職金は退職一時金と企業年金で構成されるが、政府は企業年金を、公的年金を補完する老後の所得保障のための制度と位置づけており、本体である退職金がこれ以上減ると、老後の生活も不安定にならざるをえない。

加えて今回の見直しである。優遇税制を廃止(勤続21年以降の控除額を年40万円のままにする)したらどうなるだろうか。

仮に定年退職金でもらう額を2000万円としよう。現行の基準で、大卒入社後38年で定年を迎えるとして計算すると、退職所得控除額は、

800万円+70万円×(38年-20年)=2060万円

となる。控除額が退職金より多いため税金はかからない。

しかし、20年以下と同じ計算式(控除額が年40万円のまま)では、退職所得控除額は、40万円×38年=1520万円になって、退職金より少ないため、税金がかかる。

では税金はいくらになるのか。課税退職所得額は、所得控除額を差し引いた金額の2分の1。つまり、こうなる。

(2000万円-1520万円)÷2=240万円

そして、これにかかる所得税は、

240万円×税率10%(課税退職所得額に変動)-(規定の)控除額9万7500円

の計算式で求められる。答えは14万2500円。これに復興特別所得税を加えると約15万円の税金がかかることになる。2000万円が約1985万円に減るわけだ。

勤続20年以下の退職所得控除額と同じになると、平均的なサラリーマンの退職金から15万円を持っていかれることになる。また、前出の厚労省の調査では従業員30~99人の中小企業の平均退職金は1407万円であり、退職所得控除額の1520万円(40万円×38年)以内に収まるので税制見直しがされても所得税はかからない。