2023年の新卒の就職戦線も終盤。売り手市場の中、よりよい人材を獲得すべく採用担当者は必死だ。人事ジャーナリストの溝上憲文さんは「多様性こそがイノベーションを引き起こすと言われる今、就活生がマザコンだから、協調性がないから、自己チューだから、と人間性に問題があることを理由にして受け入れられない企業の将来は逆に危うい」という――。
面接中の女性
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ぶしつけでマナー違反の就活生も落とさない企業の論理

就活戦線も早くも終盤といってもよいかもしれない。政府が決めた就活ルールでは6月1日から選考開始のはずだが、すでに5月1日時点の就職内定率は前年比6.7ポイント増の65.1%。関東地区に至っては71.6%で、前年比11.3ポイント増だ(リクルート調査)。

若者人口の減少や人手不足を背景にそれだけ企業が採用に必死になっているということだろう。そのせいか 最近の学生の中にはマナーがなっていない者や、企業があまり聞かれたくない質問を平気する者も珍しくないが、受けて立つ人事部は嫌な顔をせずに対応するなど気を使うことも多い。

昔以上にコンプライアンスを重視することになったことに加え、ちょっとでも学生を不快な気分にさせたら、SNSで拡散されて会社の評判や信用を傷つける、いわゆるレピュテーションリスクを恐れていることもある。

たとえば、一時期に横行した学生いじめの「オワハラ」(就活終われハラスメント)もその1つだ。

内定を出すから他社の面接を受けるなと企業が圧力をかけることだが、2015年に経団連が加盟企業に採用・選考時期を8月に後ろ倒しにしたことで、その前に内定を出す企業が内定者を確保するためにオワハラが横行した。

当時、IT系の創業経営者の中には「選考の過程でうちを理解したんでしょ。自分の人生なのに何で決められないのか」と、内定受諾を強要する人もいた。

2015年7月の文部科学省の調査では5.9%の学生が被害に遭ったと答えるなど世間の批判も強まり、多くの企業はオワハラにあたる発言をしないように指導した。

しかし、今もなくなっていないようだ。

政府の「2024年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請等」では、「就職をしたいという学生の弱みに付け込んだ、学生の職業選択の自由を妨げる行為(いわゆる「オワハラ」)が確認されています」とし、「正式な内定前に他社への就職活動の終了を迫ったり、誓約書等を要求したりすること……」を行わないようにと要請している。

これを見るとオワハラは必ずしも発言だけではない。「誓約書」を書かせることも含まれるという。実は公式の選考解禁日の6月1日に内々定を約束されている学生を一堂に集めて、“内々定式”を実施している大手企業も少なくないだろう。

その際に「誓約書」や「内定承諾書」を書かせる企業もある。ただし「貴社に入社します」とサインしても、法的拘束力はないが、まだ就活を続けたい学生にとっては不快な思いを抱くかもしれない。政府はそれも「職業選択の自由を妨げる行為」(オワハラ)だとしている。