昔なら即アウトだった学生も今では許容される

いくら企業が人手不足で新卒を採用したいと思っても、もちろん新卒なら誰でもよいというわけではない。自社の人材像に合致する優秀な学生を採るために、面接で厳格に見極めようとしている。

しかし、昔なら即アウトだった学生も今では許容されていることもある。

例えば家族に関連する事柄だ。10年前はマザコンを嫌う採用担当者も少なくなかった。精密機械メーカーの人事担当者はこう言っていた。

「両親のことを『うちのお父さん、お母さん』と呼ぶ学生がいるが、年齢が上の面接官はちょっと引っかかる人もいる。親離れしていないのに、入社して大丈夫かなと思ってしまう。とくに気になるのは、緊急連絡先として母親の名前を書く学生が多いこと。通常は世帯主である父親の名前を書きそうなものだが、別に離婚しているわけではない。『お父さんは仕事が忙しくて連絡が取りづらいのでお母さんの名前にしました』と言う。別に悪いとは思わないが、組織に入ったときに微妙な軋轢が生まれたときにストレスに耐えられるのかと思い、落とす採用担当者もいる」

精神的に自立してない人材などいらない、ヨソへ行ってくれ。そんなスタンスだったが、これも今は昔。近年は親に内定を承諾することを確認する「オヤカク」を行う企業は決して珍しくない。

やわらかい表情で面接する二人の面接官
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学生の会社選びに親が積極的に関与する“親子就活”が当たり前の風景になっており、会社説明会に親子同伴で参加したり、親御さん向けの説明会を実施したりする企業もある。企業もそこまでしないと“親ブロック”で内定辞退されることを恐れている。

マザコンどころか、現在の就活生とその親の関係は、一心同体。企業はそのような認識にならざるをえないのだ。

実際に親の影響力は大きい。昨年、東京大学工学部のある建築系大学院生が上場企業のイベント会社の最終役員面接に進んだ。東大生が本当にうちに入る気があるのか半信半疑だった役員が「あなたが行くべきなのは大手ゼネコンなんじゃないの。どうしてうちなの」と嫌みな質問をしても「御社の仕事が好きです、ぜひ入りたい」と熱心に力説するので、その場で内々定を出した。

終了後、役員は「彼は8割の確率でうちにくるよ」と自信たっぷりだったそうだ。ところがふたを開けたら内定辞退の連絡。その理由について人事部長は「母親にもっと良い会社に行きなさいと言われ、それでもうちに行きたいと強く言い張ったら、最後には泣かれてしまいましたと言っていた」と語る。

同社だけではない。一部上場のインターネットサービス業の人事部長はここ数年の傾向として次のような事例を語った。

「選考過程ではネット業界で活躍したいという入社意欲満々だったのに、結果的に地元の信用金庫などの企業に行くことにしました、と答える学生が毎年3~4人いる。自分で決めたのですかと聞くと、母親に言われたからと答える」