長野県の伊那市に本社を置く伊那食品工業は寒天のトップメーカーだ。1958年の創業から48年間、増収増益を達成し、現在の売り上げは165億円、従業員は約400名。同社が国内マーケットに占めるシェアは8割、世界でも15%となっている。不景気の到来で、経営の前途に不安を抱く企業が多いなか、毎年着実に成長する同社の経営姿勢に関心を抱く人々は多く、帝人、トヨタグループ幹部等が同社を見学に訪れている。
塚越寛会長は伊那食品の実質的な創業者で、21歳のとき、社長代行として経営に参画した。
会社を強くするものは何か。経営者としてずっと考えてきた。出た答えは「社員のやる気を引き出すこと」。やる気を引き出すことさえできれば会社は強くなる。
例えば機械はカタログに書いてあるスペック以上の仕事はしない。しかし人間はやる気になったら、やる気のない人の3倍くらいは働く。人間は頭を使うから、自分で工夫して仕事の能率を上げていく。では、具体的には何をすればいいのか。
考えた末に、ひとつの答えを出した。やる気を引き出すには社員に「これは自分の会社だ」と思わせればいいんだ、と。社員が自分のうち(自宅)のように感じる会社にすればいい、と。たとえ会社ではダメ人間でも、うちに帰れば立派なお父さんだという人はたくさんいる。金を稼いで、家庭を守り、子どもの面倒を見る。家族を守ることに手を抜く人間はいない。それは「家庭は自分のもの」と思っているからだ。
会社もその人にとっての家庭にすればいい。これが一般の会社だと、社員持ち株会などをつくって、株を分けたりする。しかし、それくらいのことでは社員は会社を家庭だとは思わない。