そこで、まずは情報を共有することにした。当社では幹部だけが知っている数字などない。製品をどれだけ売って、どれだけ儲かったかは社員なら誰でも知っている。また、リストラをやったことはないし、これからもしないつもりだ。

給料も地元では高いほうだ。社員旅行も、39年も前から1年おきに海外へ出かけている。そして、万が一社員や社員の家族の身に何かが起きたら、私は完全に面倒を見る。

5年ほど前のことだが、社員の自宅が火事で全焼した。消防署から第一報が入ると、私はすぐ陣頭指揮に立った。

「第1班はすぐに駆けつけろ。状況がわかったらオレに知らせるんだ。第2班は炊き出しの用意をして現場へ急行すること。そして、第3班は待機だ」

社員は火事の現場に駆けつけてきて、それぞれ着るものや家具をカンパした。会社は被災した社員に建て替え資金を貸し出した。利息は一切取らない。火事に限らず、私は困っている社員がいれば何でも面倒を見る。そして、約束したら絶対に守る。この50年間、それを続けてきた。

家族のように思うといっても、私は特定の部下と飲みに行ったりはしないし、社員の結婚式にも極力、出ないようにしている。全員の式に出席することは不可能だからだ。加えて、当社では部下は上司に贈り物をしてはいけないと決めている。逆に上司が部下におごったり、プレゼントするのは大いに結構。どんどんやりなさいと言ってある。

部下を怒ることもある。しかし、それは仕事の成績が悪いといった理由ではない。そして、自分の感情にまかせて声を荒らげたこともない。叱責するのは怠慢に対してだ。何度も同じミスをしたり、約束を破ったり……。実際、そのような部下は少ないが、そういった場合は机を叩いて怒る。