《社内コンテクスト》

自社の社員が、有望顧客や仕事でお世話になった人に会ってほしいと社長に申し入れてくることがある。そんなとき秘書が着目するのは「身内の社員の信用度」である。信用できる社員であれば、その相手も信用できることが多いという。

また、社員本人が社長と会って案件の許可をとりたい、もしくは相談に乗ってほしいなどと言ってくることもある。社長は忙しく、面会希望者は多い。重要度や緊急度が明らかな場合はそれに従うが、不明な場合は、秘書が優先順位をつけなければならない。この場合は、社員の日ごろの行いによって優先度を決めることが多いようだ。優先度の判断基準は次のようなものである。

できない人が考える「懐柔工作」の落とし穴

一、公私の区別をつけているかどうか。取引先を訪問したときやイベントなどでお土産をもらったとき、それを会社に持ち帰って職場の仲間に分けるようなモラルの高い社員は優先度が高い。逆に会社の業務でもらったお土産を、そのまま自宅に持って帰る社員は信用度が低い。こういう情報は意外なほどトップの秘書に伝わっている。営業パーソンは、接待費やタクシーのチケットの使い方にも注意が必要だ。

二、秘書におべっかを使ったり、不相応な贈り物をしていないか。秘書に対する過度なゴマスリは逆効果だ。この手の人は仕事の能力が低く、それを補うために、秘書に取り入ろうとする。仕事ができない人の持ち込んでくる案件で、トップをわざわざ煩わせるレベルのものは皆無に等しい。

三、自分の担当している仕事が好きかどうか。自分の仕事が好きな人は、ほぼ例外なくいい仕事をし、トップに持ち込む案件も重要なものが多い。また、仕事をしているときの顔つきが明るい人は仕事が好きな人が多い、と秘書たちは言う。相手に取り入ろうとするへらへら笑いは優先度を低くするが、周囲の人の気持ちまで明るくするような前向きな言動は、秘書の心をぐっとつかむはずだ。

秘書はトップに回される書類のほとんどに目を通している。書類の書き方や内容を見れば、書き手の職務能力はだいたいわかってしまう。一流秘書は社内の誰が仕事ができて、その人はどんな特徴を持っているのかを把握している。そして一流の秘書ほど、勘にたよって他人を評価せず、自分の観察にもとづく評価データを頭のなかにため込んでいる。

企業トップとの面談予約を申し込んだとき、その予約を秘書がいつも優先してくれるなら、あなたの能力はかなり高いと胸をはってよいだろう。

注1:能町光香『一流秘書だけが知っている信頼される男、されない男』サンマーク出版
注2:エクマン『暴かれる嘘』誠信書房 P88
注3:松下信武監修『ホメ渡部の「ホメる技術」7』プレジデント社
注4:エクマン&フリーセン『表情分析入門』誠信書房 P183

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