顧客に「紙一重上のサービス」を提供するためには、どんな心構え、対話、行動が必要なのか。「接客のカリスマ」と言われる元ホテルマンが、長年の体験をもとに、顧客の心を捉えるコミュニケーション法をお伝えする。

伝えたいポイントを3つに絞り込む

私は1977年にホテルオークラに入社して以来、約30年間ホテルマンとして働いてきた。フロントサービス、ベルマンなどを経て社内サービスインストラクターの第一号となり、新規ホテル開業スタッフの指導なども担当し、2000年の九州・沖縄サミットでは外務省の臨時職員として接遇の指導もした。これまでに約3000人の新人を指導した経験をもとに、現在は独立しサービスコンサルタントを生業としているが、ホテルマン新人時代には苦い経験の連続だった。

新人ベルマンだったある日、VIPである一流企業の会長の荷物を持ってエレベーターで客室までご案内しようとしたときのこと。「なんだ、その荷物の積み方は!」といきなり怒鳴られた。会長は台車の上に積まれた3つの荷物のうち2番目が曲がっていることを指摘して怒り出したのだ。曲がったといってもほんの数センチ程度だったのだが、会長は私が新人のベルマンだとわかって「君はこのサービスでメシを食うんだろ。そんな中途半端な仕事をしていたら一人前にはなれないよ」とあえて厳しく叱り、プロとしての心構えを教えてくれたのだった。