現在の酪農・畜産には保護する理由はない

しかし、食料安全保障や多面的機能から、酪農・畜産を保護する理由はない。

そもそも反芻動物である牛に穀物を食べさせることは、牛の生理に反する。しかも、日本の問題はエサとして使われる穀物が輸入されたものだということである。

輸入穀物に依存する畜産は、輸入途絶という食料危機時には壊滅する。かろうじて国内の草地資源に依存する、山地酪農、道東の酪農、阿蘇の褐牛、岩手の短角牛などが残るくらいだろう。765万トンの生乳生産は100万トン程度に減少する。豚肉、鶏肉、卵は、全く食べられなくなる。

養鶏場で働く女性
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国内で穀物を生産していれば、穀物で育った家畜の糞尿は農地に還元されて、穀物生産に利用される。ところが、日本ではこうした糞尿と穀物生産の循環的利用はほとんどない。糞尿を有効利用せず国土に滞留させる日本の酪農・畜産は、多面的機能どころか、マイナスの外部経済効果を生じさせている。

これは畜産による公害である。公害を生じさせる企業には、課税などによって生産を縮小させるべきなのに、畜産の場合には、関税や補助金などの支援を行って、生産を増大させてきた。

もちろん、こう言ったからといって、日本の酪農・畜産をなくしてしまえと言っているのではない。政府が保護する理由はないというだけだ。

保護に値する酪農とは

では、どのような酪農なら保護に値するのだろうか?

食料安全保障の見地からは、輸入穀物に依存しない酪農、多面的機能の観点からは、家畜の排せつ物を国土に滞留させないで作物のために利用・還元する酪農を支援することである。それは、草地を利用する放牧型の酪農である。

しかし、わが国の酪農は、輸入穀物を原料とする配合飼料依存の道をたどった。酪農が急速に規模拡大できたのには理由がある。酪農もコメも戦後の農地改革からスタートした。農地面積は1ヘクタールほどの小農である。コメ農家が規模拡大をしようとすると、農地を買ったり借りたりしなければならない。しかし、高米価でコストの高い零細兼業農家が滞留したので、米作の規模は拡大できなかった。これに対して、本来酪農も農地を拡大して頭数規模を拡大すべきだったのだが、輸入飼料の使用を増加させることで規模を拡大した。農地(草地)なき牛の頭数だけの規模拡大が可能になった。