“物価の優等生”に戻ることは考えづらい

過去40年程度の間、わが国で卵は“物価の優等生”と呼ばれるほど、価格が安定してきた。ところが、2022年の秋ごろから、優等生であった卵の価格が上昇している。今年に入って、価格上昇の勢いは一段と強まっている。一部のレストランなどでは、卵料理の提供を控えるところまで出ている。

卵が“物価の優等生”から脱落した背景には、いくつかの要因があるのだが、最も重要な要素は“高病原性鳥インフルエンザ(鳥インフル)”の拡大といわれている。卵を産む鳥の数が減ってしまっては、これまでのようにたくさんの卵を収穫することは難しい。

鶏卵洗卵選別包装施設でチェックする人の手元
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現在の小売店舗での卵の価格動向を見ると、今後、すぐに卵の価格上昇が落ち着くことは考えづらい。それでなくても食糧費などの価格が上昇しているときに、卵が“物価の優等生”から落ちてしまったのは、わが国家計の生活負担を高めることになるはずだ。

一方、シンガポールや香港では、わが国の卵を“高級品”と考える人が増えている。シンガポールでは、わが国では考えられないほどの高値で、わが国産の卵が売れるという。日本産の卵は安心、安全な高級食材だという認識は、着実に高まっているようだ。そこに、わが国農業の成長戦略を考えるヒントがあるかもしれない。

30年もの間、価格がほとんど変わらなかったが…

わが国では、長い間、卵の価格が安定してきた。それは、消費者物価指数に含まれる“乳卵類”の前年同月比の価格変化率からも確認できる。1973年に発生した“第1次石油危機”による物価の上昇を背景に、一時わが国の卵価格は大きく上昇した。1974年11月、乳卵類の価格上昇率は同42.1%に達した。

ただ、上昇は一時的だった。1975年半ば以降、価格上昇は徐々に落ち着いた。その後は多少の上下を伴いつつも前年同月比でみた乳卵類の価格変化率は横ばい圏で推移した。消費者物価指数に含まれる卵の割合は0.25%程度であり、乳卵類の5分の1を卵が占める。

卵だけの価格の推移を見るには、一般社団法人日本養鶏協会が公表している統計が分かりやすい。1989年から2022年までの暦年平均の卵価格は、およそ190円だった(東京で販売されているMサイズ、1キロ当たり)。気象などの影響によって単月の卵の価格は相応にばらついてはいるが、ならしてみると価格はほとんど安定して推移してきた。