ラーンによれば、ドイツがパイプラインによる「青い水素」の購入を受け入れたのは明るい兆しだ。これでノルウェーの石油産業は、脱炭素社会への移行において新たな役割を果たすことができる。
再生可能エネルギーを売るだけで石油に匹敵する利益を上げるのは無理だろう。しかしエリクセンに言わせれば、ノルウェーには電力以外にも、輸出できる技術やノウハウがたくさんある。
例えば、ノルウェーの石油産業には世界中の洋上風力発電施設の建設・運用に役立つ浮体式ターミナルの建設で50年の経験がある。二酸化炭素の回収・貯留でも25年の実績がある。風力や水力、そして水素を用いるのに適した産業構造もある。
ほかの欧州諸国が今後、本格的に再生可能エネルギーへの転換に取り組むとき、ノルウェーの経験はきっと役立つはずで、そこに必ず商機があるとエリクセンは考える。
「そうしたパートナーシップができれば誰もが潤うはずだ。ノルウェーの企業と国民だけでなく、脱炭素へ向かう世界にとってプラスになる」
ドイツ国際安全保障問題研究所のシェヌイットも、ノルウェーにとっては今がチャンスだと考える。今後は再エネ市場も多様化し、各国のニーズに見合う形で発展していく。どの国もエネルギーの自立を目指し、他国への依存を減らすのは間違いない。
だからこそ今が大事だ、とシェヌイットは言う。今こそノルウェー政府は指導力を発揮し、自国のエネルギー産業に対して大胆な方向転換を迫るべきだ。さもないと、戦争による燃料価格の高騰でノルウェーだけがいい思いをしたと非難されかねない。
「それが今年か、5年後かは分からない。しかし(対応が遅れれば)いずれ不愉快な問いを突き付けられるだろう」
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら