余った再生可能エネルギーは輸出に振り向ければいい。例えばドイツは、国土の面積はノルウェーと大差ないが人口は15倍以上。現実問題として、エネルギーの自給自足は不可能に近い。

水素は燃焼後に水しか出さないクリーンな燃料だから、ドイツの重工業を脱炭素化するには必須とされる。そもそもEU自体が、2050年までには世界のエネルギー需要の24%を水素で賄えるという見通しを示している。

だが、問題はどんな水素燃料なら真にクリーンと言えるかだ。定義上、真に「排出ゼロ」と言えるのは再生可能電力で生産された「緑の水素」だけだ。対して「青い水素」は天然ガスを燃やして生産されるので、その過程で排出される二酸化炭素を回収・貯留する必要が生じる。

ちなみに、ドイツで緑の党を率いるハベックは原則として「青い水素」を否定する立場だ。昨年1月には、「青い水素」を用いる事業にはドイツ政府の水素発電補助金を支給しないと表明している。

だが現実は厳しい。ノルウェーからパイプラインで運ばれてくる年間400万トンの水素も、少なくとも最初のうちは「青い水素」だ。その後は段階的に「緑の水素」に転換することになっているが、その時期は明示されていない。

つまり、ハベックは厳しい現実を前に妥協を強いられた。ドイツ国際安全保障問題研究所のフェリクス・シェヌイットに言わせれば、ノルウェーは「緑の大臣に青い水素を認めさせた」のだ。

この1月の2国間協定で、ドイツ側は水素社会への移行に必要なインフラ整備の約束もした。既に水素パイプラインの第1区間工事がザクセン州で始まっている。

これ以外に、洋上風力発電や蓄電技術の開発、ドイツで回収した二酸化炭素をノルウェーの大陸棚に運んで埋めるためのパイプライン建設など、広範な協定も結ばれた。うまくいけば、ドイツはEU全域における脱炭素社会への移行で主導権を握れる。

しかし、ノルウェー側にも厄介な障害がある。国民の意識だ。現時点でストーレ政権の支持率は低い。真冬なのに電気代が急騰しているからだ。原因はウクライナでの戦争にあるのだが、国民は納得しない。何十年も高い税金を払ってきたのに、まだエネルギーの自立はできないのかという不満がある。

ノルウェー人はこう思っている、と同国の国際気候・環境研究センターのボード・ラーンは言う。石油は売って稼ぐためにあり、再エネは自分たちが使うためにあると。