拡大する化石燃料採掘という皮肉
「困ったことだが」とラーンは言う。「今のノルウェーでは、化石燃料の輸出よりもクリーンエネルギーの輸出のほうが悪とされている。なんとも皮肉な話だ」
なぜか。クリーンな再エネは化石燃料並みの利益をもたらさないからだ。ノルウェーが昨年、化石燃料の輸出で稼いだ額は1210億ユーロ。対して再エネで稼いだのは10億ユーロ程度。この先、輸出が増えても2030年時点で80億ユーロ前後とされる。
ラーンによれば、将来的に化石燃料による収入が失われた場合、再エネの輸出でそれを補うのは「不可能に近い」。
ノルウェー国民は今も石油産業を支持しており、この皮肉な現実を受け入れている。そして現下の戦争によるエネルギー危機は、環境に優しい国を自称するノルウェーがせっせと化石燃料で稼ぐことを許している。
この戦争が始まる前まで、EUは北極圏で石油や天然ガスの採掘を続けるノルウェーを批判していた。だが今のEUは、まさにその資源に依存している。だからノルウェーも野心的に生産を拡大している。
昨年11月には石油会社エクイノールが、ノルウェー海の新しいガス田開発に14億4000万ドルを投じると発表した。今年に入ってからも、同国政府は北極圏で新たに92カ所での石油探査を認めている。昨年の3倍以上だ。
ノルウェーが化石燃料に執着するせいで、ほかのEU諸国との再エネ連携協定の交渉は進まない。昨年2月、ノルウェーとEUは産業界のための「グリーン・アライアンス」の検討を開始したが、いまだに合意に至っていない。
昨年11月には国連の気候サミットで合意を発表する段取りだったが、間に合わなかった。交渉の舞台裏をリークした地元紙によれば、2030年以降も石油と天然ガスの採掘を続けたいというノルウェー側の意向を、欧州委員会は断固として拒否していた。
ノルウェーの経験に学ぶ
ノルウェーのアンドレアス・ビェラン・エリクセン石油・エネルギー副大臣は、EUの「心変わり」は残念だと述べた。
ウクライナ戦争でエネルギー不安が高まっていた昨年6月には、欧州委員会のバルディス・ドンブロフスキス副委員長がノルウェーとの共同声明に署名していたからだ。
そこには、北極圏のノルウェー領に眠る石油資源は欧州全体にとって貴重であり、ノルウェーは「継続的な探査・発見・開発を通じて、2030年以降も長期にわたり欧州への主要供給国であり続ける」と明記されていた。
「世界は30年以降も、まだ天然ガスを必要としているはずだ」とエリクセンは言う。「化石燃料から再エネへの完全な転換には時間がかかる」