新年早々、ドイツのロベルト・ハベック副首相兼経済・気候保護相は雪深いノルウェーの首都オスロに赴いた。バルト海に巨大なパイプラインを建設する計画をまとめるためだ。
いや、ロシア産の天然ガスを運ぶパイプラインではない。緑の党に所属するハベックが欲しかったのは、北欧のエネルギー大国ノルウェーから自国へ年間400万トンの水素燃料を運ぶ総延長750キロのパイプライン。完成予定は2030年とされる。
「ノルウェーは今もわが国への最重要なエネルギー供給国であり、今後もそうであり続ける」とハベックは言った。「それが脱炭素社会への道だ」
ロシアがウクライナに侵攻して以来、ノルウェーは欧州諸国にとって、ロシアに代わる良心的なエネルギー供給源となった。天然ガスでは文句なしの1位、石油でもトップクラスだ。
昨年3月、ノルウェーのヨーナス・ガール・ストーレ首相との共同記者会見に臨んだデンマークのメッテ・フレデリクセン首相は、欧州諸国の指導者たちが抱く切実な思いを率直に語った。「エネルギーは、ロシアではなくノルウェーからもらいたい」と。
だが戦闘の長期化でエネルギー価格が高騰すると、ノルウェーだけが潤うのはおかしいという批判が出た。実際、ノルウェーの石油産業は昨年だけで1210億ユーロも稼いでいる。侵攻前の21年は約270億ユーロだった。
そんなノルウェーに対し、その「超過利益」をウクライナの再建に投じるよう求めたのはポーランドのマテウシュ・モラウィエツキ首相。ノルウェー側は無視したが、それでもエネルギー政策の方向性を転換し、今後はほかの欧州諸国が脱炭素社会へ移行するのを支援するために自国の資源を役立てると表明した。
「今度の戦争でノルウェーは気付いた」と言ったのは、ノルウェー国際情勢研究所(NUPI)エネルギー研究センター長のロマン・バクルチュク。「この国が、次なるクリーンエネルギーの超大国となり得るという事実に」
緑の水素と青の水素
実際、ノルウェーは以前から化石燃料で稼いだ資金を「緑の投資」に振り向けてきた。早くも1980年代前半には、国内の再生可能エネルギー供給体制を整えるために巨額の投資を始めている。
今や国内で消費する電力の98%を再生可能エネルギー(再エネ)が占めている。その約9割は水力発電だが、90年代からは陸上・洋上風力発電に莫大な投資をし、二酸化炭素の回収・貯留にも巨額の資金を注いできた。再エネのインフラ整備を急ぐ欧州諸国にとって、ノルウェーは模範的な大先輩と言える。