山口百恵を遡行する

――どうやってこういう歌詞を書くミュージシャンが生まれたのだろうという興味があります。その仮説が、シシドさんが山口百恵のファンだということなのですが。

シシド 山口百恵さんは、その入口というよりはゴールに近いほうなんです。その前にいろいろ歌謡曲を聴いているんです。越路吹雪さんが最初の入り口で、そこから次々と昭和歌謡を聴いているときに、その歌詞の肌触りというものがすごく面白かったんです。「ええっ、そこが題材なんだ!?」と思わされたり。

――シシドさんはそれをリアルタイムで聴いた年代ではないですよね。お母さんのCD棚から抜いていったんですか?

シシド 家には昭和歌謡、ないですね。両親、若いので。父親なんか特に若くて、それこそEXILEとか、J-POP聴いてるんじゃないですかね(笑)。母親はデヴィッド・ボウイに始まり、安全地帯、米米CLUB。昭和歌謡は、わが家にはなかったですね。

――ではどうやって遭遇し、遡るんですか。

シシド バイト先……(笑)。そこの店長が、なんていうんですか、古風なわけじゃないんですけれど、人間として面白い人なんですよ。

――バイト、何屋さんなんですか。

シシド ワインバーです(笑)。そこの店長が、すっごい生々しいというか。正直な人なんです。その人が、店で昭和歌謡をよくかけていたんです。

――ほう……って、えっ? ワインバーで昭和歌謡?

シシド そうなんですよ(笑)。ジャズとかもたまにかかりますけど、昭和歌謡が多くて。その人が何かのパーティのときに越路吹雪さんを唄いたいと言い出して、じゃあみんなで越路吹雪さんを練習しようとなったときが始まりなんです。

――それ、シシドさんが大学生のときですか?

シシド 大学を卒業してからです。わたし、もともとモノマネ歌合戦を見るのも好きだったんです。それで古い歌をけっこう知ってはいたんですけれど、「あ、ちゃんと聴いたことなかったな」と思って聴き始めて、面白くなっていって、どんどん、どんどん、遡って探っていったんです。いろんな人に「なんかいい歌手いませんか」って訊いて。前から知っていて口ずさめるけれど、意味を考えないで唄っていた歌詞をちゃんと読み返してみたりとか。

山口百恵さんも遡っているんです。引退コンサートでマイクを置いたあのシーンから入っているんですよ。逆回しなんです(笑)。引退コンサートでマイクを置くシーンが、やっぱり強烈なんです。髪に飾りを付けて、白いドレスを着て、こうやってマイクを置いて去って行くっていうシーン。わたしの山口百恵さんって、最初のイメージがそれなんです。モノマネする人も絶対その格好で出てくるんで。

――あっ、そうか。

シシド 存在感、大きいですね。歌手というだけでなく、女性像としても。だからたぶん、昭和歌謡の中でもいちばんガーンって来たんだと思います。