1月の施政方針演説で岸田文雄首相は「日本型職務給」という言葉を口にした。今後、持続的に賃金が上昇するために、ということだが実効性はあるのか。昭和女子大学特命教授の八代尚宏さんは「年功賃金からの移行が急務だとして、首相は6月までに“日本型職務給”のモデルを示すと語りました。しかし、そうした重要案件は強制せず個々の企業に委ねるべきだ」という――。
日本人の「給与」はこれからどうなってしまうのか
1月半ばの岸田文雄首相の施政方式演説では、今後、持続的に賃金が上昇するために「日本型職務給」という目新しい概念が提起された。これは個人の職務に応じてスキルが適正に評価され、それが賃上げに反映されるためには、従来の年功賃金からの移行が急務としている。また2023年6月までに、この日本型職務給の導入方法を類型化し、モデルを示すという。
これには、3つの問題点がある。
第1に、この「日本型職務給」の中身が全く不明である点だ。欧米型の「職務給」はもともと個々の職務と賃金が一体化しており、それに見合った人材を配置する。これに対して、日本型の「職能給」は個々の職務内容が明確でなく、年齢や勤続年数に応じた賃金を先に決める。この両者の折衷案のような「日本型職務給」とは、本家の欧米型職務給と何が、どう違うのだろうか。
第2に、成長分野への円滑な労働移動を促すための職務給であれば、産業や企業規模にかかわらず、同一労働同一賃金が保証されることが大きな前提だ。さもなければ衰退分野でも高賃金の大企業に貴重な人材が滞留する現状から大きな変化は望めない。このためには、安倍晋三内閣で法制化された、「(見かけ上の)同一労働同一賃金」では不十分だ。
第3に、日本企業に合った職務給のモデルを示すという人事コンサルタントのような役割を、政府が自ら果たすことの妥当性である。企業の賃金体系のあるべき姿を政府が定め、それに各企業が倣うべきという上から目線のまるで“官製給与”のような論理は、労働者の大部分が公務員でもなければありえない。