アジア系へのヘイトクライムは約4倍に急増

アジア系住民に対するヘイトクライムの増加はデータでも裏付けられている。カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校の「憎悪・過激主義研究センター」がまとめた調査によると、ニューヨークなど10の都市で2021年に起きたアジア系住民に対するヘイトクライムと見られる事件は295件だった。

及川順『非科学主義信仰』(集英社新書)
及川順『非科学主義信仰』(集英社新書)

これは前年、2020年の79件と比べると3.7倍の増加になる。都市ごとに見ると、ニューヨークでは前年の4.4倍、ロサンゼルスでは前年の2.7倍の増加だ。研究センターのブライアン・レビン教授は、ヘイトクライム急増にはさまざまな理由があると指摘する。

レビン教授がヘイトクライム増加の理由として最初に指摘するのは、報道や政治家の発言などの影響だ。レビン教授は「この10年を見ると、その時に報道されている出来事によって攻撃の対象となる人種が変遷している」と分析している。その上で、アジア系住民に対するヘイトクライムを誘発した要因は、やはり、トランプ前大統領の「チャイナ・ウイルス」発言にあると見ている。

「トランプ前大統領が、特定の人種に対して軽蔑するような、固定観念にとらわれたような発言をして以降、事件は増加しています。さらに、いったん偏見が広まってしまうと、政治家の発言などのきっかけがなくても、新型コロナウイルスのニュースを見て、それとアジア系の人々を結びつけてしまう人が出てきます」

ご存じの通り、トランプ氏は2020年の選挙に敗北してホワイトハウスを去った。しかし、その言動によって増幅された偏見は消えることなく、退任後も根深く残っている。

「アジア系は反撃してこない」

レビン教授によると、アジア系住民が狙われるのには、固有の理由もあるという。その一つが、「アジア系の住民は、攻撃をしても反撃してこないだろう」という加害者の固定観念だ。我慢の文化、あるいは事を荒立てないようにする文化が、かえって加害者を増長させている。さらに、被害者が英語を十分に話せない場合、「攻撃されても警察に通報しないだろう」と加害者が決めつけて、犯行に及ぶことも考えられるという。

確かに警察への被害届の提出には言葉のハードルがある。筆者も以前、自宅の駐車場にとめていた自家用車からマフラーについている触媒が盗まれたため、被害届を警察に提出したが、普段は使わないような独特の用語も多く、面倒だった。さらに、英語が十分に話せないとなると、警察署に行っても、どれだけ対応してもらえるのかはわからない。

このため、ロサンゼルス近郊では、NGOがヘイトクライムにあった際の手続きの方法を各国語で説明したパンフレットを作成するなどの取り組みが進められている。

教育熱心な「成功者」へのやっかみ

アジア系は、弱者と見られる一方で、成功者とも見られている。レビン教授は、「『成功を収めている人』への潜在的なやっかみが、さまざまな偏見と混ざって、ヘイトクライムにつながっていると考えられます」と話す。

筆者の肌感覚でも、日本、韓国、中国からの移民やこれらの国々にルーツを持つ人たちは、教育熱心な人が多いという印象はある。実際には家庭ごとに事情は異なるだろうが、やっかみを持つ人たちは「アジア系は子どもに勉強ばかりやらせて、よい大学に行かせて、成功をつかませている。アメリカにあとから来た彼らは、我々が守ってきたものを奪いに来ている」などと感じているようだ。

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