「英中関係の“黄金時代”は終わった」
2022年は英国政界にとって激動の1年だった。ロックダウン中に首相官邸でパーティーを開いたボリス・ジョンソン首相の退陣後、故エリザベス女王に任命された最後の首相となったリズ・トラス首相は史上最短の49日間で解任。その後を引き継いだリシ・スナク首相は、英国憲政史上初めてアジア系のルーツを持つ首相として大きな期待をもって迎えられた。
スナク氏はジョンソン政権時代に財務相を務めただけあり、経済問題への取り組みは期待されたものの、外交姿勢は未知数という声が高かった。ところが昨年11月、初の外交方針演説で、「英中関係の“黄金時代”は終わった」と述べ、中国とは距離を置くとの考えを鮮明にした。
保守党が従来続けてきた親中外交の既定路線を否定してまでなぜ中国に牙をむくのか。スナク首相がここまで急転換したのはなぜか、その思惑について考えてみたい。
政府庁舎に「中国製カメラ」の設置を禁じる
スナク首相については、もともとトラス前首相よりも穏健派と理解する向きが多い。トラス氏は中国を「英国にとって脅威な存在」と断定したが、スナク氏は中国との経済的な結びつきを重視し、融和的な姿勢をとってきた。それが「黄金時代は終わった」と言い切ったのだから驚きだ。
外交方針演説では、「英国の利益と価値観に挑戦する中国政府の組織的な動きが、いっそう激しくなっている」と指摘。香港や台湾に対する締め付けを念頭に「英国の対中アプローチを変える必要がある」と述べ、今後は外交姿勢の方向転換を図るとの意欲を示した。実際に昨年11月には、政府庁舎などに中国製監視カメラの設置を禁じるよう命じ、中国企業の反発を呼んだ。
非営利団体「ビッグ・ブラザー・ウオッチ」の調査によると、英国では公共団体の大半が、メーカー大手の杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)と浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)のいずれかの監視カメラを使っているという。政府は安全保障上のリスクがあると説明している。