歴史上の人物に詳しくなくてオッケー

2023年放送のNHKの大河ドラマは、徳川家康が主人公です。さすがに家康や信長や秀吉ぐらいは知っているとしても、もう一歩踏み込んで、酒井忠次ただつぐや本多忠勝ただかつあたりになってくると、何をやったどういう人かはさっぱりわかりません。

詳しい人みたいなフリをしていますが、NHKの大河ドラマの紹介ページを見て脇役の名前を書き写しました。要するにカンニングです。申し訳ありません。

会話の中ですらすらと「やっぱり酒井忠次ってさ」などと言えたら、尊敬のまなざしを集められそうな気がします。どんな時代の歴史上の人物にしても、じつは名前を聞いたことがなくても、反射的に「ああ、いたよね」なんて言ってしまいがち。

三方ヶ原の戦いで大太鼓を叩く酒井忠次の錦絵『酒井忠次時鼓打之図』より
月岡芳年・画「三方ヶ原の戦いで大太鼓を叩く酒井忠次の錦絵」『酒井忠次時鼓打之図』より(写真=立花左近/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

たしかに、歴史や歴史上の人物に詳しいと、当時を舞台にしたドラマをより深く堪能たんのうできるでしょう。どこかに旅行に行ったときも「ここは○○のゆかりの地だなあ」なんて思って、歴史のロマンに思いをせる楽しさを味わえます。ただ、それはもともと興味があって、結果として本当に詳しい人になった場合の話。無理に詳しいフリをしたり、なんとなくカッコいいからと付け焼刃の知識を仕入れたりする必要は、まったくありません。漠然としたイメージではなく、立ち止まって実際のシチュエーションを思い出してみましょう。

徳川家康の話をしているときに、その程度の名前は誰でも知っててあたり前という口調で「やっぱり酒井忠次ってさ」と言い出す人は、けっこうイヤなヤツです。遠慮がちに「そのころに酒井忠次っていう人がいたんだけど」と説明してくれたとしても、「それがどうした」としか思いません。歴史上の人物に詳しいことで、プラスの評価を得られると思ったら大間違い。尊敬のまなざしを集めるどころか、ちょっとイラっとされたり、「おいおい、無理しなくていいよ」と憐れみのまなざしを向けられたりするのが関の山です。

詳しくなくても、人生において特になんの支障もありません。詳しい人だって、その時代に住んでいたわけではなく、しょせんは断片的な聞きかじりの知識です。大きなくくりでは、同じぐらい「よくわかってない」と言っていいでしょう。

……いや、ちょっと負け惜しみくさい気配もありますね。苦手なことに対しては負け惜しみで自分を守るのも、胸を張って生きていくための生活の知恵です。