誰も気にしていなかった「サウナ付き客室」
【林】当時の僕はサウナと水風呂がこの世でいちばん嫌いだったので、プロサウナーという肩書を見て「二度と会うことはないと思います」と冗談交じりに伝えたんですけどね。
ただ、そのときも彼の交友関係の広さは気になっていました。それで、それから半年くらいたった頃に「そういえば、うちにもサウナ付きの客室があったな」とふと思い出し、客室内のサウナに入ってみることにしたんです。
――もともと、サウナ付きの客室自体はあったんですね。
【林】ただ、当時は誰もサウナに興味を持っていなかったので、「8部屋あるデラックスツインを予約したら、たまたまサウナが付いていた」という感じで、要するに差別化されていなかったんです。しかも設備も古いドライサウナで、やっぱり肌はヒリヒリするし、喉は痛い。
それでも、その写真をインスタグラムに何気なくアップしたら、ととのえ親方が「僕、その部屋に泊まりたいです」とコメントを入れてきて、彼を招待することになりました。
――二度と会うことはないと思っていたプロサウナーと再会した、と。
【林】そのときも一緒に食事をして、あとはくつろいでもらうつもりだったんです。そしたら、ととのえ親方が「かっちゃん(林社長)を変えないと、道東のサウナが変わらない」と言ってきて。
結局、彼と一緒にサウナに入って手ほどきを受けることになったのですが、そのときに「ととのう」と、サウナストーブの石に水をかける「ロウリュ」を初めて経験して、これがサウナの入り方なんだと理解したんですよ。数年悩まされていた不眠が嘘のように、ぐっすり眠れたことも個人的には大きかったですね。それで、僕も一気にサウナにハマってしまいました。
サウナの本場で感じた「地元の弱点」
【林】僕がサウナにハマってから半年ほどたった頃、ととのえ親方と一緒にフィンランドのサウナツアーに行ったことも運命を変える出来事の一つでした。訪れたフィンランドのルカはサウナの本場と言われているだけあって、サウナが「体験」として素晴らしかったんです。
まず石を焼いてロウリュするスモークサウナと呼ばれるサウナに入り、そのあとに凍っている湖上に穴を開けた場所に浸かるアヴァントをします。そのほか、バスローブを着たスタッフさんが説明してくれたり、ウェルカムドリンクやナッツのサービスなんかがあったりと、ツアーがパッケージ化されていたんですね。
一方で、帯広を含む十勝地方は、温泉もあるし、食べるものもあるけど、見るものがない。2010年以前はとくに、旅行代理店がツアーを組みにくい通過型観光地の代表格と言われていました。
――サウナの本場に行って、パッケージ化しにくい地元の弱みに気づかれたんですね。
【林】はい。ただ、ルカは白樺や針葉樹林が生えていて、雪景色は十勝そっくりでした。そのほかにも、ルカではチーズとトナカイがよく食べられているのに対し、十勝も乳製品と鹿肉が特産品であったりと共通点が多い。