荒唐無稽な陰謀論はどこで生まれるのか。『陰謀論』(中公新書)を書いた京都府立大学の秦正樹准教授は「『SNS悪玉論』が支持されやすいが、統計的には、民放の政治番組などのほうが、陰謀論との関連が強い」という――。(インタビュー・構成=ライター 梶原麻衣子)
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ツイッターの利用頻度と陰謀論は関係が薄い

――秦さんの新著『陰謀論』(中公新書)でかなり意外だったのは、陰謀論や陰謀論者が発生するのはSNSの働きが大きいとする「SNS悪玉論」が否定されていたことです。

【秦】特にツイッターに関して〈ツイッターの利用は、むしろ陰謀論的信念の低さと関連している〉と分析しました。元々政治に相当程度の興味があって、そういうアカウントばかりフォローしている人にとっては、「ツイッターはいつもどこかで政治的な話で炎上している」というように見えてしまうのでしょう。しかしこれこそがフィルターバブルの世界です。

私が5年ほど前にツイッター上のオープンなアカウントのデータを機械的に収集して分析したところ、政治的なトピックを扱っているのは全体の10%にも満たない程度でした。しかも大半は「増税は勘弁してくれ」という程度で、いわゆるネトウヨのような激しい政治的意見を書き込みしている人の割合は本当にごくわずかです。

多くのアカウントは、「上司がうざい」とか、最近なら「キンプリ(King & Prince)からメンバー脱退に衝撃」とか、「サッカーのワールドカップで日本が健闘!」というような、日常的な話題がほとんどです。僕の調査でも、特に若年層ではツイッターの利用頻度が高くても、陰謀論的信念が高まるわけではない、という結果が出ています。

SNS、中でもツイッター悪玉論を唱えてしまう人たちは、日頃から、自分自身が「政治ネタの論争化、陰謀論化している部分だけ」を見ているからそう思ってしまうのかもしれません。ツイッターユーザー全体から見れば、ごくごく薄い部分の話をしているに過ぎないということを認識するべきです。

本書で紹介した調査では、「ツイッターをよく利用している人ほど、『自分自身は陰謀論やデマの影響を受けにくい』が、『自分以外の第三者はそうした影響を受けやすい』と考えている」ことも分かりました。

このような背景にあるメカニズムを「第三者効果」といいますが、こうした認識が「SNSでは陰謀論が跋扈ばっこして、影響を受ける人が増えている」という論調や認識を生んでいる可能性があります。

一方で、実際に、統計的に「陰謀論的信念の高さと関連がある」と言えるのは、民放の政治番組を視聴する頻度です。

また、まとめサイトに関しても若年層やミドル世代では閲覧頻度と陰謀論的信念の高さに関係性はみられませんでしたが、年配層の場合は関連がみられました。