鉄のサプリメントを飲む人は早死にするリスクが高い
だからといって鉄分量が少なければ安全、というわけでもない。特に閉経前の女性は毎月少量の血液を失い、結果として鉄分を失うので、鉄不足は深刻な問題だ。しかし、過剰な鉄が危険であることは健康についてのありがちな考え方の欠陥を露呈する。それは、「多ければ多いほど良い」という考え方だ。
人々はさまざまなサプリメントを摂取するが、それはどの栄養も少し多めに摂っておきたいからだ。マルチビタミンを飲むのもそのためで、自分はきっと栄養不足だからすべて多めに摂っておいたほうがよいと考えるのだ。残念ながら、体はそのようにはできていない。
「アイオワ女性健康研究」と呼ばれる大規模な研究は、このアプローチの欠陥を明らかにした。この研究では、3万9000人の女性を追跡調査し、特に、鉄のサプリメントを飲む人は飲まない人より早死にするリスクが高いことを見出した。むろん、鉄を含むマルチビタミンを飲む人にも同じことが言えた。
人体には余分な鉄を排出するシステムがない
「多ければ多いほど良い」のアプローチがそれほど問題を引き起こさないのは、体がほとんどの栄養素やビタミン類をうまく調節しているからだ。通常、何かを摂り過ぎても体はそれを排出するが、鉄は例外の一つだ。人体には、余分な鉄を排出するシステムがない。汗や、細胞の死や出血によって多少は失うが、急に鉄が過剰になっても排出する仕組みはないのだ。はるかな過去においては食料が少なく、腸内に吸血寄生虫がいて、出血する頻度が高かったので、鉄が過剰になることはなかったからだろう。
だが、現代は違う。特に男性は、年をとるにつれて鉄を蓄積しやすい。極端な例が遺伝性疾患のヘモクロマトーシスだ。この病気の患者は通常より多くの鉄分を食物から吸収する。早期に発見して治療しなければ、鉄分濃度は非常に高くなる。その結果、たいていガンや心疾患の合併症で早死にするが、その前に糖尿病、疲労感、関節痛といったあらゆる不調に悩まされる。ただし、瀉血によって鉄分濃度を下げればそうならずにすむ。