「退職金で返済しよう」が難しくなっている

退職金で完済すればいいと考える人もいますが、住宅価格の上昇とは反対に、退職金は右肩下がりです。2003年に2656万円だった平均退職給付額が、2018年には1997万円となっています(※4)。転職を繰り返したために、退職金はほとんど当てにできないという人もいます。

もう一つ見落としがちな点があります。共働きが当たり前となり、妻の収入を考慮に入れて住宅ローンを組むケースが増えていますが、共働きを前提とした立地選びをしなかったため、住宅購入後に妻が離職もしくは非正規転換を余儀なくされることがあります。

たとえば、子育てしやすい環境を求めたがために通勤の便が悪くなったとか、夫の通勤しやすさは考慮したけれど妻の通勤事情を後回しにしたため、仕事との両立が困難になってしまうなどです。

妻の収入を前提に住宅ローンを組むのであれば、夫が家事や育児を分担するのは当然として、夫と妻いずれの勤務先にも無理なく通える地域を選ぶとか、仕事と子育ての両立に対して手厚いサポートをしている自治体を選ぶといった視点も重要です。転勤や転職といった不確定要素がありそうなら、しばらくは賃貸住まいという判断もあるでしょう。

※4 厚生労働省『就労条件総合調査』

「子どものためにできる限りのことを」は大事だが…

上昇しているのは住宅価格だけではありません。子どもの教育費も増加の一途です。3歳以上の保育費無償化や高校の授業料無償化などの施策がありますが、大学進学等の高等教育にかかる費用は、依然として大きな負担となってのしかかります。子どもの数は減っていますが、子ども一人当たりにかける教育費は上昇を続けているとの指摘もあります(※5)

子どもが10歳になるまでが貯め期といいましたが、この時期に「子どもの可能性を広げてあげたい」「親としてできる限りのことをしてあげたい」との思いから、子どもの習い事に多くを費やしたり、思い出作りのためのレジャーや旅行などに多くを割く家庭が散見されます。

今後の子どもにかかる費用を見通したうえでのことなら問題はないのですが、単に「今、出せるから出す」という対応を繰り返していれば、教育費の負担が増えてくる時期に息切れをしてしまいます。子どもが小さい時の出費と異なり、教育費は「出せるから出す」のレベルをはるかに超えてくる可能性があるからです。

※5 参議院調査室作成資料『経済のプリズム』第170号(平成30年7月)