大手銀行が固定型の住宅ローン金利を引き上げている。マイホームを検討している人にとっては負担が増える中、どのように家選びを考えるべきか。ファイナンシャルプランナーの内藤眞弓さんは「大事なことは、『持ち家ならば資産になる』『家賃を払うのはもったいない』といった思い込みを捨てることだ」という――。
住宅について話し合うカップル
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「持ち家ならば資産になる」を信じていいか

「賃貸と持ち家はどっちがお得か」は、永遠に決着のつかない神学論争のようなものです。たとえば、住宅購入のメリットの一つとして、「資産になる」ことが強調されますが、どのような状態を「資産になる」としているかが曖昧です。「住み続けられること」「イザとなったら売却できること」「賃貸に出せること」など、それぞれが「思い描く資産」の姿は異なります。本当に「持ち家ならば資産になる」と信じてよいのでしょうか。

また、「賃貸住宅は持ち家より質が劣る」とも言われますが、住宅に求める質はそれぞれ異なりますし、住まう地域によっても住宅事情は異なります。一般論ではなく、「自分が住みたい地域ではどうなのか」という検証が欠かせません。そもそも賃貸にせよ持ち家にせよ、予算に限りがある以上、身の丈に合わせた物件を選ぶのが現実ではないでしょうか。

大事なことは、自分や家族の望む暮らしを実現するために、どのような住まい方がふさわしいかを考えることです。「生涯賃貸vs生涯持ち家」だけではない、多様な選択肢があるはずです。「賃貸vs持ち家」の問題点や思い込みを乗り越えつつ、自分にとっての住まい方を考えるためのヒントをお示ししたいと思います。

「家賃21万円のタワマン」か「8000万円の新築」

【Aさんのケース】

Aさんはかねがね通勤に便利なエリアでのタワーマンション暮らしを夢見ていました。ちょうど2LDKで共益費込み21万円という、希望通りの賃貸物件が見つかりました。しかもUR都市機構(※1)の物件で、礼金、仲介手数料、更新料がかからないというものです。

いろいろ物件を探す中で、隣駅に同程度の広さの新築マンションが約8000万円で販売されているのを見つけました。頭金1500万円を入れ、35年固定1.68%(※2)で住宅ローンを組むと月々の返済額は20万4800円となり、家賃より安くなります。

しかし、Aさんはこのエリアに一生住み続けたいわけではなく、転勤や転職の可能性を考えると、住むのは10年くらいがせいぜいと考えていました。10年間の家賃総額は2520万円で住宅ローンの返済額は約2458万円です。10年後に8割の6400万円で売れると仮定すると、ローン残高の5014万円を差し引いた1386万円が手元に残ります。

これだけだと購入したほうがおトクに思えます。しかし、購入時と売却時の諸費用と頭金1500万円、10年間にかかる費用を差し引くと、実質負担額は約3790万円となり、家賃のほうが負担が軽いことが分かりました。

※1 大都市や地方中心都市における市街地の整備改善や賃貸住宅の供給支援、UR賃貸住宅の管理を主な目的とする独立行政法人。国土交通省所管。
※2 【フラット35】借入期間21年以上35年以下、融資率90%以下で最も多い金利(2023年1月時点)