カイゼンマンは薬剤師ではなく医師である
TPS(Toyota Production System)というトヨタ生産方式を全社、関係会社に伝道しているTPS本部長の尾上(恭吾)さんはわたしに「おばあちゃんの七面鳥」を教えてくれた人です。
尾上さんは「僕ら生産調査部自体がつねに自分たちの仕事のやり方を検証し、カイゼンしているのです」と言います。
「私たち生産調査部の人間でも『おばあちゃんの七面鳥』的な失敗があります。それは、あるところのカイゼンで成功経験があると、どこへいっても同じやり方で解決しようとすること。
どこでも同じやり方で結果が出るなんてことはないんです。問題が起こったら、一つひとつ対処の仕方を考えなくてはいけないんです。社長の豊田(章男)から言われたことなんですが、
『カイゼンマンは薬剤師でなく、医師を目指せ』
やってきた患者に風邪ですか、じゃあと風邪薬を渡すだけじゃダメ。患者の症状を見て、それぞれの人に合う処方箋を書く。カイゼンマンは薬を渡すことより、診察して処方箋を渡すんだ、と。それが本当のカイゼンマンなんだ、と。ですから、ある時までは『工程診断』という言葉でカイゼン指導していたこともありました。ただ、『うちの職場の人間は病気ではない』と言われたので、この言葉はやめましたけど」
概して、ひとつの成功体験を他に適用しようとして失敗することは少なくないそうです。自戒するべき言葉です。簡単に診断して、誰でも同じ処方箋が通用すると思ったら大間違いなんですね。
「形式的な入札と相見積もり」を見直しへ
トヨタは形式的な仕事を嫌う実務型の会社です。そんな会社で今、検討され、始まっているのが、形式的な入札や形式的に相見積もりを取ることを考え直すことです。
部品を購入するとしましょう。一般的には一本の釘から先端的な半導体に至るまで複数のサプライヤーから提案してもらうことになっています。
担当者は提案された部品の品質と値段を厳しくチェックして、どこの会社の部品を採用するかを比較検討して決めます。公平ですし、良質の部品がリーズナブルな価格で入手できるのが入札です。
しかし、ある種の部品に関しては入札をすること自体にほとんど意味がないというものもあります。