仕事に深く集中する状態もドラッグの一種である

対照的にブルーカラーの仕事はますます機械化され、仕事自体にやりがいを得ることが難しくなっている。遠くに利益を得る人がいて、その人に雇われて働くという形だと自律性は減り、経済的な報酬も控えめとなり、共通の目的のために働いているという感覚もほとんどなくなってしまう。バラバラに流れ作業の一つとして働くことで達成感を持つことは難しくなり、最終的な成果物を受け取る消費者との接点も最小限にされてしまう。

達成感と消費者との接点は仕事に対する動機を作る要である。それらが減ってしまう結果として、「辛い仕事には遊びがなければ」という精神性で、退屈な骨折り仕事をやった一日の終わりに衝動的な過剰摂取をすることになるのである。

アンナ・レンブケ『ドーパミン中毒』(新潮新書)
アンナ・レンブケ『ドーパミン中毒』(新潮新書)

それなら高校に行かず、賃金の安い仕事についている人があまり働かなくなり、高学歴で高い賃金を稼ぐ人がますます働くようになるのは納得できる。2002年までに、賃金で上からトップ20%の人は下位20%の人よりも約2倍も働く時間が長くなった。その傾向は今でも続いている。経済学者たちはこの変化について、経済の食物連鎖の頂点にいる人たちの報酬が大きくなっていることが原因だと分析している。

私は時々、仕事を一度始めるとやめるのが難しいと思うことがある。深い集中に入る“フロー”と呼ばれる状態はそれ自体がドラッグであり、ドーパミンを放出し高揚状態を作り出す。それ以外何も考えられないというこの種の集中状態は、現代の豊かな社会の中では高く報酬が与えられることになるものだが、それ以外の人生のものごと──友達や家族との親密なつながりから私たちを切り離す罠にもなり得る。

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