あまりにも多量に、あるいはあまりにも強力な痛みを求めると、痛み依存症になるリスクが高まる。私も臨床の現場で目の当たりにしてきた。私の患者で走りすぎて足の骨を疲労骨折してしまった人がいるが、彼女はそれでも走るのをやめなかった。また快感を得たり、心の中にずっとあるわだかまりを鎮めたりするために前腕や太ももの内側を剃刀で切る患者もいた。彼女は深刻な傷跡が残ったり、感染症にかかったりする危険があるのに切ることをやめられなかった。

こうした行動を依存症であるとして、依存症患者にするのと同じように治療すると回復していくのである。

働けば働くほどインセンティブがもらえる仕組み

「ワーカホリック」と呼ばれる人々は社会の中で賞賛される存在だ。ここシリコンバレーほどそうである場所は他にない。平日だけで週100時間はもちろん、24時間365日いつでも仕事ができる状態になっているのが当たり前である。

積み上がった事務書類
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2019年、それまで私は3年間毎月仕事で出張していたのだが、仕事と家庭のバランスを元に戻そうと考えて出張を減らすことにした。最初はその理由をそのまま先方に伝えていた。家族との時間を増やしたいからと。しかし、「家族との時間は大事」というヒッピー的な理由で誘いを断ることに人々は困惑と怒りを覚えるようだ。結局、「他の仕事がある」ということにしたらあまり抵抗にあうことはなくなった。別の場所で仕事をすることは容認されるようだった。

ボーナスやストックオプションの見通しから昇進の約束まで、ホワイトカラーの仕事には目に見えないインセンティブがたくさん織り込まれている。医学の分野でさえ、医療従事者はより多くの患者を診察し、より多くの処方箋を書き、より多くの手術を行おうとする。そうするようにインセンティブを与えられているからだ。私は毎月、自分の生産性がどれくらいだったか、すなわち自分の所属する病院のために私がいくら分の請求書を出したかという報告書を受け取っている。