今や新たな事業の柱に成長
その後のカモ井加工紙は、工業用マスキングテープの事業を順調に拡大させつつ、新たな事業の柱を獲得していく。3人の女性たちから工場見学依頼のメールが届いた2006年当時と比べると、現在ではカモ井加工紙の売上高は約3倍に拡大し、その15%ほどを「mt」が占めるようになっている。
同じマスキングテープでも、工業用ではなく、文具・雑貨用として販売しようとすれば、生産のロットサイズから、印刷方法、製品バリエーション、価格設定、販売店舗、販売促進などの事業を成り立たせる要素を一新していかなければならない。文具・雑貨用のマスキングテープは、工業用との共通点はあるものの、その事業の組み立ては大きく異なる。
イノベーション――すなわち既存の事業とは異なる新しい価値をもたらす事業の創出には、新しい用途や技術を見いだすだけではなく、その実現のために必要な各種の要素と、その組み立てを見直していく必要がある。事業というものは多くの要素を組み合わせたシステムであり、そのためにイノベーションは、サラスバシーのいうクレイジーキルトのように進行していく。
カモ井加工紙は、マスキングテープの製品としての評価項目、生産や発注のロットサイズ、営業や販売促進の手法などを、固定観念にとらわれずに柔軟に切り替え、新しい仕組みをつくりあげていった。その結果、文具・雑貨用マスキングテープという形で、イノベーション理論の父ヨーゼフ・シュンペーターがいう「新結合」が生まれたのである。
女性たちの小冊子のための工場見学の受け入れからはじまったこの歩みは、美しいクレイジーキルトをカモ井加工紙にもたらした。