工業用とは異なる多品種少量生産への対応を模索

谷口氏を中心とした少人数のチームによる、文具・雑貨用のマスキングテープの開発がスタートした。同じマスキングテープとはいっても、工業用と文具・雑貨用とでは、事業の組み立ては大きく異なる。文具・雑貨用となると、色に加えて柄のバリエーションの多彩さが、ユーザーを引き付ける決め手となる。単に色の数が多ければよいわけではなく、色味や透け感などへのこだわりも欠かせない。

mtブランドのマスキングテープの生産現場
写真提供=カモ井加工紙
「mt」ブランドのマスキングテープの生産現場

一方で、文具・雑貨用のマスキングテープは生産のロットサイズが小さくなる。同色のテープが工業用のように大量に使用されるわけではなく、多品種少量生産とせざるをえない。

それ以前のカモ井加工紙では、色については製紙メーカーの段階で、着色されたものを使用していた。しかし、文具・雑貨用のマスキングテープの生産に適したロットサイズは、製紙メーカーが引き受けてくれる最小単位をはるかに下回っていた。

谷口氏たちは、まずは製紙メーカーよりも小ロットでの着色に応じてくれる印刷工場を探して、発注する。そしてさらに、それよりも小ロットの印刷が適切だと考えられたことから、新たに設備投資を行い、自社内に印刷機を備えるようになっていく。デザインは外部のデザイナーに発注できても、印刷ができなければ製品にはならない。谷口氏たちは、小ロットの印刷のための投資とノウハウ習得を進めた。

新しいブランド、新しい販売チャネル

マーケティングの組み立ても変える必要があった。文具・雑貨用のマスキングテープは、多様な色、柄のテープを少量ずつ用意し、店舗ではバラ売りが中心となる。そのためにどうしてもコスト高となり、単位当たりで比較すると工業用の3倍ほどの価格となる。

谷口氏たちは、文具・雑貨用のマスキングテープのために新たに「mt」というブランドをつくり、パッケージングのデザインも変えて、工業用のマスキングテープとの区別を明確にして販売を行うことにした。同じマスキングテープでも工業用とは性格の異なる商品として販売していく必要を感じたからである。

さらに、新たな販売チャネルの開拓も必要だった。谷口氏たちは、生活雑貨関連の展示会への出展などを行い、それまではマスキングテープを扱っていなかった文具店や雑貨店などへの営業に取り組んでいくことになった。

加えて販売促進のために、マスキングテープの活用方法のワークショップなどを全国の都市で開催したり、ファクトリーツアーを行ったりするなど、ファンの育成と交流のためのイベントに力を入れるようになっていく。「mt」の公式ウェブサイトについても、工業用のマスキングテープのサイトとは別に作成することにした。